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冴雫
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コンビニのレジ横に置かれた、スチームマシン。
 中に並べられたほかほかと温かそうな白や黄色の中華まんを、は幾度も見比べる。

「どうしたんだ?」

 店内を回っていた将臣は目当てのものを見つけたらしく、商品片手に横に立った。
 視線をちろりと彼に向け、指を顎にあてる。

「中華まんでどれを食べようか迷ってるんだ」

 今日は特に冷え込む。
 のぼりに踊る「中華まん」の文字に惹かれたはいいが、何を食べるかが難題だった。
 定番の肉まんは外し難いが、スパイシーなカレーまんもいい。
 ピザまんのトマトとチーズのハーモニーも気になるし、あんまんをスイーツ感覚で食べるのもいい。

「う~ん、どれにしようかな」
「どれでもいいだろ。ほら、俺は買っちまうぞ。お前もさっさと決めろ」

 言い置いてレジに向かう将臣に急かされ、決心する。

(て・ん・の・は・く・り・ゅ・う・の・い・う・と・お・り……)

 神頼み、ならぬ白龍頼り。
 結果、どうにか一つに絞り込めそうになったところで、脳内で指差していた中華まんが店員の手により連れ去られてゆく。
 思わず行方を視線で追うと、レジで会計をしている将臣の元へ。
 後で一口貰おう、と決心して、再び白龍にどれを食べるべきか問いかけた。

 レジに並び、ようやく決めた中華まんを注文する。
 ほかほかの中華まんが入った小袋をぶら下げてコンビニを出ると、将臣はすぐ近くで待っていた。
 あんぐりと開けた口でかじり取られてゆく中華まんは、残り半分もない。

「私のもあげるから、ちょっと食べさせて! それ、私も狙ってたのに」
「さっさと決めないからだろ」

 呆れたような口調ながら、将臣は中華まんをそっと差し出してくれた。

「ありがとう! いただきま~す」

 大きな手が支える中華まんにぱくりとかじりつき、しっかりと咀嚼する。

「うん、おいしい!」

 お返しに、と小袋から取り出した中華まんを両手でぱかりと割り、片方を将臣の口元に持ってゆく。
 将臣は望美の手を包み込むようにして安定させ、そのままがぶりとそれに噛み付いた。

「こっちもうまいな」
「あー! 将臣くん、食べ過ぎ!」
「そうか? んじゃ、もう一口やるよ。ほら」

 眉を吊り上げてみせると、将臣はもう一度中華まんを近づけてきた。
 遠慮なくそれを口にしてから、自分の分に取り掛かる。
 温かいうちに、と少し急いたので、あっという間に食べ終わってしまう。

「ごちそうさまでした」

 ぱし、と手を合わせ、ごみをコンビニに設置されているごみ箱に捨てる。
 既に背を向けている将臣に駆け寄り、二人で並んで歩き出した。

 びゅうと強い風が吹き抜け、のぼりがばさばさと揺れる。
 つい先程まで温かいものを手にしていたからか、持つもののない指が冷たく感じた。
 思わず立ち止まって指先を擦り合わせると、そこに将臣の手が覆い被さってきた。
 そのままするりと片手を取られる。

「ほら、とっとと帰ろうぜ」
「……うん」

 軽く引かれて歩き出すと、なんだかくすぐったさを感じて指先を動かしてしまう。

「寒いのか?」

 将臣はそんな風に勘違いをして、指を絡める結び方に変える。
 熱さすら感じるようになった指先に、将臣が唇の端を上げた。
 望美は熱さをごまかしたくて、けれど熱は手離したくなくて。
 ぶんぶんと、ことさら大きく繋いだ手を振り回した。
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