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冴雫
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とても嬉しいです!



またもや診断メーカー。
今度は重望。
和議後京残留、の始まりあたり。


重望への3つの恋のお題:君の手を握りしめて/ずっと触れたかった/戻れない、戻らない http://shindanmaker.com/125562









空に輝くは、十六夜の月。
 暗闇にぽかりと浮かぶ月の都は、ひどく遠い。
 それを見つめる女性が一人。

「――神子…殿?」

 夜も更けた神泉苑での思わぬ人物との遭遇に、重衡は目を瞬かせた。

「重衡さん」

 水辺に佇んでいる望美が、驚いた様子もなく重衡を見る。
 気配に気づいていたのだろうか。
 重衡が距離を詰めても、身じろぎひとつしない。

 月の淡い光に照らされたその姿は、あの十六夜の出会いを思い出させる。
 桂の都に帰ったのだと、彼女の帰る場所は重衡には手の届かない彼の地なのだとばかり思っていたのに、再び出会うことのできた彼女はこの地に留まると聞いた。
 それが本当か、重衡が尋ねてもよいものなのだろうか。
 逡巡の後、重衡は口を開いた。
「還内府殿の弟君が、元の世界に帰ったと聞きました」
「将臣くんに聞いたんですか? 将臣くん、しばらく現代の料理が食べられない、なんて零してましたし」

 確かに将臣はそのようなことを言っていた。
 彼は事後処理があるからと、未だ京に残っている。
 しかしそれももうすぐ終わり、彼は元の世界に帰る。

「……あなたは」
「え?」
「神子殿は、この世界に残ると聞きました」

 はっと息を飲む気配。
 びゅうと吹いた風が彼女の髪を靡かせ、十六夜を雲で覆い隠す。

「――はい」
「どうしてか、聞いても?」

 望美はすっと目を伏せた。

「……好きな人が、いるんです」

 その言葉に、重衡の胸が痛む。
 彼女の想い人とは誰だろう。
 かつて重衡に告げたよりも強く、彼女が救いたいと願った人なのだろうか。
 自らが中心となって平家源氏の両陣営を動かし本当に和議を結んでしまった、その原動力となるほどに。

「八葉の方ですか?」
「違います。八葉のみんなは、仲間として好きですけど」
「……私の知らない方でしょうか?」

 望美は困ったように笑う。

「秘密です」
「まだ、想いを告げてはいないのですか?」
「告白するつもりはありませんから」

 垂れた髪を掬い、耳にかける。
 重衡は思わずその手を掴んだ。
 初めて触れる望美のぬくもりはあたたかくしっかりとかたちをもっていて、けれど間に布を一枚挟んでいるような心地がした。
 それはきっと、重衡が感じている心の距離のせいだ。
 このまま、彼女を遠いと感じたま、諦めたくはなかった。

「十六夜の君」

 望美が瞠目する。

「私は、あなたをずっとお慕いしておりました。私にも、『ちゃんす』というものをいただけませんか」

 ぽろりと雫が零れ、まろやかな頬を伝った。
 ぱくぱくと開閉した口が、震える音を紡ぐ。

「おぼ、えて……?」
「ええ。忘れることなど、できようはずがありません。『ちゃんす』をいただけますか?」

 ぎゅうと目をつむった望美は、ふるふると頭を動かした。
 その動作にちくりと痛んだ重衡の胸に、望美の手が触れる。

「チャンスなんて、必要ありません。――私も、重衡さんのことが好きです」

 重衡は、告げられた言葉がすぐには理解できなかった。
 ぽんと言葉が身のうちに放り込まれて、じわじわと浸透していく。
 ようやく意味を理解した途端、重衡は彼女をかき抱いていた。
 胸の中に閉じ込めたぬくもり。
 それは布で隔てられているのに、肌を直接触れ合わせているかのごとくあたたかかった。
 まるで、魂同士が触れているかのように。
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