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冴雫
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診断メーカーの本日の結果で書いてみた。


吉日への3つの恋のお題:夢の中ですら思い通りにならない/抱きしめたら消えてしまいそう/子どもじゃない、だけどおとなになんてなれない http://shindanmaker.com/125562









 すっと背筋が伸ばされた黒に覆われた背中。
 その見慣れた後ろ姿の傍らに、見慣れない女性の姿があった。

 女性の顔は陰に隠れて見えないが、吉羅と楽しげに会話をしている様子が伝わってくる。
 ふわりと花開いた大輪のように艶やかな雰囲気を纏う女性の腰には、ダークスーツに包まれた腕が回されている。

「……吉羅さん」

 口から、思わず彼を呼ぶ声が零れ落ちる。
 それは彼にも彼女にも届くことなく、三人しかいない白い空間にあっさりと溶けて消えた。

 二人をただ見ているのがいたたまれず足を動かそうとした香穗子は、自分の足がその場から一歩も踏み出せないことに気づいた。
 何故、と足元を見下ろすと、ローファーを履いた足が目に入る。
 接着剤かなにかで地面と靴底が固定されてしまったのだろうかと靴を脱ごうとするが、まるで靴と足が一体化してしまったかのように離れない。
 ならばと靴下を脱ごうとするが、それも靴と同じ結果に終わった。
 わけのわからない状況に、香穗子は手近にあったスカートの生地をぎゅうと握る。

「――吉羅さんっ!」

 思いきり、助けを呼ぶように叫んでも、二人は背中を見せたまま。
 制服にローファーで、さして化粧っ気もない香穗子とは違い、女性は綺麗に着飾り、香穗子が履いたら真っ直ぐに立つこともできなさそうな高いヒールを履きこなしていた。

 吉羅に似合いの、大人の女性。
 そんな言葉が頭を過ぎって、香穗子は自らが単なる女子高生であることが急激に悔しくなった。
 やはり高校生など、大人から見たらまだまだこどもなのだろうか。
 けれど、香穗子はこどもなんかじゃない。
 吉羅の隣にいる彼女ほど大人にはなれないが、彼に恋をしているれっきとした少女なのだ。

 苦しくなった胸をおさえるように、タイを掴む。
 強く閉じた瞼が翳した暗闇の中、遠くから呼ぶ吉羅の声が聞こえた気がした。





「……君、日野君」

 近くで聞こえる声に、香穗子はうぅんと音を漏らして重い瞼を上げた。
 眩しさに何度か瞬きをして、ぼやけていた焦点が合うようになると、視界に見慣れた顔が入っていたことに気づく。

「…きら、さん……?」
「ようやくお目覚めかね」

 掠れた声で彼を呼ぶと、彼の指がそっと伸ばされた。
 目の下に触れた指は、労るように薄い皮膚を撫でる。

「寝言で人の名を呼ぶからどんな夢を見ているかと思えば……。人を悪夢に出演させるのは、いい趣味とは言えないな」
「好きで、見たわけじゃ……」

 まだどこか呆然としながら、言葉を返す。
 夢。悪夢。あれは、香穗子が見ていた夢だったのだろうか。
 視線を廻らせれば、そこは吉羅の自宅のリビングだった。
 ソファー前のローテーブルには、大学で出された課題曲の楽譜が散らばっている。
 譜読みの途中で眠ってしまったらしい。
 と言うことはやはり、あれは夢なのか。
 強張っていた身体が僅かに緩む。

「まだ寝ぼけているのかね?」

 瞳の奥に心配の色を滲ませて顔を覗き込んでくる吉羅に、香穗子はそろそろと手を伸ばした。
 彼の手から伝わるぬくもりを感じてはいるのだけれど、これも夢なのではないかと恐ろしくなってしまったのだ。

 もしこれも夢で、現実は先程見た夢のように吉羅が似合いの女性と寄り添っていたら、と。
 彼の胴にしがみついてしまいたい思いと、伸ばした腕が空を抱いてしまったらどうしようという恐怖が交錯する。

 そんな香穗子の逡巡を察したのか、吉羅はふっと息を零して香穗子を抱きしめてきた。
 耳を吉羅の胸元に押し当てられる体勢になり、とくんとくんと穏やかな鼓動が聞こえる。
 その鼓動とぬくもりに、確かにここは現実なのだと信じられた。
 ほぅと安堵の息をついた香穗子は、ぎゅっと吉羅を抱きしめ返す。

「もうちょっと、こうしててください」

 言葉での返答はなかったが、背中をぽんぽんと叩かれる。
 まるで泣きじゃくるこどもを慰めるような仕種だと思ったが、香穗子がへそを曲げることはなかった。
 大人はこどもに、唇へのキスなんて贈らないだろうから。
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