全ての時代の八葉が揃い、望美と八葉たちは北斗星君に捕われた南斗星君と神子たちの元へと向かうべく、天の涯へとつながる四宮を目指していた。
この天界の怨霊が自分達のいる時空の歪みから生じたものなのだとすると、我らにも責任の一端はある、とできる限りの怨霊を追い払ってゆくこととなり、皆はあちこちへと駆けずり回っていた。
今向かっているのは東。あたりは花畑が一面に広がり、とても怨霊が蔓延っているとは思えない。
むやみに急いでもどうにもならない、とゆっくりと野を進んでいく一行の中で、望美はぼそりと何かを呟いた。
「……やし……しい…。」
隣を歩いていた将臣は、思わず聞き返す。
「は?」
「癒しが欲しい。」
どよどよとした雰囲気を纏ってそう言ったかと思うと、望美はキッと将臣を睨みつけた。
「このパーティーじゃ癒しがないじゃない!詩紋くんとか彰紋くんとか天の玄武ズとかはかわいいけど、もっとこう、チビ白龍みたいなちっちゃい子とか、朔みたいなかわいい女の子と触れ合いたいの!」
何を力説するのかと思ったが、そんなことかと将臣は脱力する。
しかし、望美のいうことももっともではある。女性は望美一人なのに対して、男性は二十四人もいる。
「まぁ、確かに男ばっかりだもんな。」
「そうだよ!ほかにも女の子の神子がいると喜んだのもつかの間、囚われの身になってるし。北斗星君め…!」
「お前の怒りは、俺達が意思を奪われて門番にさせられていたことには向けられないのか?」
あっさりと捕われてしまったことは情けないが、神に寝ている隙をつかれたのだから、不可抗力ともいえるものだ。
多少は自分の心配をして欲しいというのも男心。
だが、望美にそんな期待を向けても意味がない。
「女の子が囚われの身になってるのと比べられるわけないじゃない。男なら自力で脱出してみせれば格好良いものを。」
理不尽な言い分を向けられただけだった。
「仕方ねぇだろ?強力な術をかけられてたんだから。」
「別に悪いとは言ってないじゃない。」
…確かに、詰られたわけではない。
だが、遠回しに「格好悪かった」と言われているような気がしてしまう。望美にそんな気持ちがないことはわかっているのだが。
話しているうちに望美はますますヒートアップしてきたようで、将臣が聞いていることなど忘れたとばかりに言葉を紡ぐ。
「夢の小箱なんていうのを開けてみても、朔や白龍はでてこないし。それなのに狐夫婦は出てくるなんて…!夢なんだから、ちゃっちゃと倒しとけばよかった…。
知盛と銀が出てくるんだから、朔と白龍が出てきてもいいじゃない!」
将臣にとって聞き逃せない名前が出てきた気がする。望美と彼に接点などないはずだ。
「…知盛?」
しかし、将臣の呟きなど耳に入らぬとばかりに望美の舌は動き続ける。
「唯一の癒しは、ほかの時代の八葉の小箱を開けた時に現れる、神子通信だけか…。」
こうなった望美に突っ込んでも無駄だと経験から悟っている将臣は、知盛のことはひとまず流して、反応を返しそうな単語を口にする。
「神子通信ってなんだよ。」
しかし、望美から返ってきたのはすげない一言。
「説明するの面倒くさい。」
「…そうかよ。お前に聞いた俺が馬鹿だった。」
あまり期待はしていなかったが、そうもばっさりと切られると切ないものがある。
しかし、そんな将臣の複雑な心境を望美が解すはずもなく、一人闘志を燃やしていた。
「とにかく、ほかの神子と南斗様の宮でティータイムを楽しむ為にも、さっさと元凶の北斗星君を倒しに行くよ!自分の手で戦えないのが悔しいけど…。頼りにしてるからね、将臣くん!」
そう言って将臣を見上げる望美は、とってもいい笑顔をしていた。
その笑顔を真っ正面から見た将臣は、思わず心の中で北斗星君の為に僅かな祈りを捧げてしまった。