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冴雫
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加地の癖「ポエム脳になる」から思いついた小話です。

ポエムの意味が合っているのかわかりません。
若干尻切れでまとまってないです。

それでもよろしい方は追記からどうぞ。

「おはよう、加地君。」
「おはよう、香穂さん。」


―――ああ、君は今日も可愛らしくも綺麗で可憐だね。

いや、そんなありふれた言葉では、君のことを言い表すなんてできない。
肌はまるで、誰も足を踏み入れたことのない神聖な場所に降り積もった白雪のように透き通ったような色をしているし、その頬にさす赤みは綻び始めた桜の花びらのようにほのかに色づいていて、肌の白さを引き立てているね。
長い睫毛の下に秘められた瞳には意志の光が輝いて君をより魅力的にみせているし、すっと通った鼻筋に、桜桃のようなみずみずしさを持ち合わせている唇。

聞いた人全てが感動する演奏を生み出すその指は細くて可憐で、桜貝と見紛うばかりの綺麗な爪で縁取られている。

そして―――。



「…か……く…。……くん。加地君!」
「え?…っつ!」

―――どうやら、僕は君の素晴らしさに惹きつけられ、君のことを考えることで思考が埋め尽くされてしまったようだ。

今は心配気に僕のことを呼んでくれている、まさに「鈴の音のよう」に響き、君の奏でるヴァイオリンの音色に勝るとも劣らない、最高の音楽である君の声…。
ああ、その声が僕だけに向かっているなんてまるで夢のようだ。


「…………加地君!」

耳元で大きな声を出されるとさすがにきついけれど、君の声ならばそれすらも幸福………。

「あっ、ごめんね、香穂さん。少しぼーっとしちゃった。」
「大丈夫?さっきも呼んだのに…。」

心配そうに僕を見上げる表情もとても可愛い。君にそんな顔をさせてしまうのは心苦しくもあるけれど、僅かに下げられた眉尻やひそめられた眉間。
先程とは違って、憂いを纏った瞳は小鹿のようで、思わず守りたいという衝動に包まれてしまう。

「平気平気。あ、先生来ちゃった。」
「本当だ。…無理はしないでね。」
「ふふっ。大丈夫だよ。…でも、具合が悪くなったら、香穂さんが保健室に連れていってくれる?」
「…もう。そんなこと言う元気があるなら大丈夫そうだね。」

そう言ってぷいと前を向いてしまった君の頬が、淡い薔薇のように染まっているのもとても可愛らしいね。真剣に黒板を見つめながらも、ちらちらとこちらを見て僕が大丈夫か窺ってくれるのもとても嬉しいよ。
君の心配気な瞳に映ったら誰でも、君にそんな顔をさせまいとそれだけの気持ちで元気を取り戻すんじゃないだろうか―――。


「……じ、加地!お前どこ見てるんだ。ほら、次読め。」
「―――宮は、白き御衣どもに紅の唐綾をぞ上にたてまつりたる。御髪の…―――」
「よし。次、日野。」
「はい。…『御帳のうしろなるは誰ぞ』と問ひたまふなるべし…―――」


静かな教室に響く可憐な声は、いつまでも聴いていたくなる。明るく通る声はとても聴きやすく、そのせいか読む文章がほかの人より長い気がする。あれでは喉が渇いてしまわないだろうか。休み時間になったら急いで飲み物を買ってこよう。
その時には、笑顔を見ることができるだろうか。笑顔が目的ではないけれど、君の光輝くような、陽の光を思い出させる笑顔は、見るもの全てを幸せにする力があるんだから、つい見たいと望んでしまうんだ。
それが僕ひとりに向けられたものであればなお嬉しいんだけれど…。


読んでくださってありがとうございました!
ちなみに、文中の古典は『枕草子』の「宮にはじめてまゐりたるころ」です。
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