ひっついてる将望が書きたかった。
ソファーに座った将臣の背後から、そろそろと近づいてくる気配。
正体のわかりきったそれをわざわざ振り向いて確認する気は起きず、将臣は視線を膝上に置いた雑誌に落としたまま、ページをぺらりとめくった。
記事に興味を惹かれ紙面に意識を向けたところで、肩と頭に軽い衝撃を感じる。
後ろから回された腕は将臣の鎖骨あたりで交差して輪となり、つむじあたりには何かが載せられている。
将臣は交差した部分を押さえるようにして左手をかけた。
右手では膝に置いた雑誌を閉じ、それをローテーブルの上へとよける。
姿勢を戻したと同時にぎゅうと力を増してしがみついてきた腕を、ぽんぽんと叩く。
「なんだ? 子泣きじじいの真似か?」
「将臣君。それは、私が重いって言いたいの?」
軽口を叩くと、望美は将臣の肩にぶら下がるようにして体重をかけてきた。
「言葉の綾だって。お前はそんなに重くないだろ」
「本当?」
「ああ」
「片手で持てる?」
「それはさすがにわからんが。膝に乗られても大丈夫なくらいには」
乗ってみるか?と冗談半分で自分の太股を叩くと、望美は身を起こしてソファーを回り込み、将臣の太股に腰を下ろした。
将臣は望美の腹に手を回して身を固定し、彼女の背に額をつける。
「まさか、本当に乗るとはな」
「乗れって言ったのは、将臣君でしょ」
「ああ。だけど、この座り方は予想してなかった」
「え?」
振り返えろうとした望美を、腕に僅かに力を入れることで押し止める。
そのまま左足を軽く浮かせ、右腕で傾いた望美を支える。
「ちょっと話しづらいだろ、この体勢。横向かないか? こっち背中で、腕、俺の首に回して固定しろ」
目をぱちぱちとさせながらも指示に従った望美は、横向きの体勢が落ち着いたところで顔を赤らめた。
将臣の首と自分の腕でできた隙間に顔を埋め、表情を隠してしまう。
そのままもぞもぞと身じろぎして、ぱっと立ち上がろうとしたのを抱きしめて邪魔する。
「……さすがにこれは恥ずかしいんだけど」
「くっつきたかったんだろ?」
「後ろからでも満足です」
「俺は満足じゃない。せっかく一緒にいるんだから、顔が見れる位置にいろよ」
再び顔を影に隠した望美が、どんと将臣の胸を叩いてくる。
顔は見えないが、赤く染まった耳朶は窺えた。
くくっ、と思わず零れた笑いを聞き咎めたのか、望美は顔を上げて不機嫌と照れが入り交じった瞳を将臣に向ける。
将臣はそれを笑みで流し、望美を抱く腕に力を込めた。
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更新履歴ブログ「冴雫」。たまに小話か萌え語りカテゴリでSSS投下。
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