以前読んでみたいと言っていただいた、「夕映えフーガ」続きの照れまくり香穂子
…のつもりで書きましたが、そんなに照れてないうえに短いです。
時間軸は「夕映えフーガ」のすぐ後。
頬を赤く染め、居心地が悪そうにしながらも、香穗子が助手席におさまる。
吉羅は助手席のドアを閉めると、数歩だけ移動して後部座席のドアを開け、香穗子の荷物を置いた。
「吉羅さん、自分の荷物ぐらい自分で……」
「駄目だよ。これはまだ『質』だからね」
「もう車に乗ってるし、逃げたりしませんよ」
「ならば、荷物を後ろに載せていても支障はないだろう」
反論の言葉を封じ、後部座席のドアも閉めた吉羅は車の反対側に回り込み運転席へと身を滑り込ませた。
香穗子もシートベルトをしているのを確認し、車を動かす。
窓越しに見慣れた景色が流れてゆくが、助手席に座る香穗子はいつも通りとはいかなかった。
初めて吉羅の車に乗った時のように、どこか落ち着かなげで、体をもぞもぞと動かしている。
ちらりと吉羅に視線を向けてきてはすぐに外し、窓の外を見ながら指先で自らの口元に触れてはため息をつく。
吉羅は車を道路脇に停め、助手席に声をかけた。
香穗子は何もない場所で停車したことに疑問を抱いているようだが、いまだ吉羅とは顔を合わせづらいのか、泳ぐ視線をどうにか外に貼りつけようと努力しているようだった。
「――日野君」
「はいぃっ!」
吉羅が呼びかけると、香穗子は肩をびくっと揺らして運転席へと向き直った。
「……そんなに構えなくてもいい」
勢いよく振り返ったせいか、香穗子の髪は少し顔にかかってしまっている。
吉羅はくっ、と笑いを漏らして手を伸ばした。
赤く染まっている頬に触れ、髪の毛をそっと払う。
途端に頬はますます赤みを増し、香穗子は身じろぎして吉羅の手から逃れてしまった。
「吉羅さんがそういうことするからです!」
「慣れてもらうと言っただろう?」
「でもっ……!」
緊張と照れが高まるあまりか、瞳が潤み声が震えてきたのを察し、吉羅は少し引くことにした。
「では、もっと低い段階からにしようか」
「え?」
「今週末は空いているかね?」
「あ、はい。いつもみたいにヴァイオリンの練習をする予定ぐらいで……」
「ならば、食事に付き合いたまえ」
香穗子は迷っているようだったが、しばしの間の後にこくりと頷いた。
その様子から、まだ緊張が解けきっていないのが伝わる。
ひとまず約束を取り付けた吉羅は、再び車を発車させた。
今週末はやはり、接触を増やして荒療治といこう、と考えながら。
リソナンツァ……残響
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