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冴雫
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今日は11月11日、ポッキーの日!
昨日の予告通り、勘で選んだ譲望です。

来年はプリッツの日をお題に書けたら面白そうですね。
さすがに予告はできませんが。



SSSは追記から。






 名を呼ばれて顔を上げると、何かが唇に触れた。
 視界に入るのは、細いプレッツェルにチョコがコーティングされている菓子。
 細い棒が折れる時の小気味よい音が名の由来となっている、有名な商品だ。
 黙っている譲の反応が不満なのか、菓子はなおも譲の唇を突く。

 仕方なく口を開ければ、正面に座っていた恋人が菓子を突っ込んできた。
 歯で侵入を止めると安定したと見たのか、プレッツェルが露出していた部分に添えられた指が離れる。
 今度は譲がそこに指をやり、パキパキとかみ砕きながら菓子を全て口内に納めて咀嚼した。

「突然、どうしたんですか」
「だって、今日はポッキーの日だよ! 譲くんも一緒に食べよう?」

 望美が口にしたのは、理由になっているのかなっていないのかよくわからない理由。
 今日は11月11日。
 1が並んでいるという理由で、ポッキーの日だプリッツの日だと宣伝をしている。

 それは譲も知っていたから、譲の部屋に望美がポッキーを持ち込んで楽しそうにしているのを微笑ましく見ていた。
 その楽しみを一本たりとも奪うつもりはなく、譲は静かに本を読んでいたのだ。
 けれど、望美はその楽しみを譲に分ける――というよりも共有したいらしい。

「――じゃあ、いただきます」

 言葉に甘えて菓子のパッケージに手を伸ばすが、それは望美の手が重なったことにより止められる。

「先輩?」

 望美は譲の問いかけに返事をせず、もう片手でポッキーを摘むと、先端を自らの口に含んだ。
 そして目を閉じ、反対の先端を譲に加えろとばかりに近づけ、揺らす。
 これはもしかしなくとも、俗に言う「ポッキーゲーム」だろうか。
 それに口をつけるべきか迷っている間にも、重なったままの手から伝わる熱が譲の思考を霞ませる。

 空いている片手は、緊張からか僅かに震えている。
 その手をそっと伸ばし、指先で差し出された先端を摘む。
 軽く押せば、望美が驚きに目と口を開いた。
 隙間の出来た口に、隙間ずつ菓子を送り込む。
 唇から1センチほどの距離で手放せば、残りは望美が自分で食べた。

 ごくん、と喉が動くのを確認し、譲は身を乗り出した。
 重ねられていた手の上下を逆転し、捕らえる。
 ちゅ、と軽い音と共に触れた唇は、チョコレートの味がする。
 すぐに身を離すと、望美の赤い顔。

「……ゲームはやってくれなかったのに」
「――お菓子を理由にしたくありませんから」

 望美に触れるのに、言い訳は使いたくなかった。
 今は想いが通じているのだから。
 重ねた手をずらし、指先で望美の手の甲を撫でる。
 もう片手はぴくりと動いた肩に伸ばし、頬へと滑らせる。

 触れる理由は、愛しいから。
 それだけで、いい。
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