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冴雫
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※雰囲気文。

ふと文章が浮かんだので書いてみた。
ら、望美か香穂子かすら決まってないという…。
雰囲気文なのでいいかと開き直り。

小話って程でもないので、萌え語りカテゴリにほうり込み。






 たとえば。
 想い出が、心の中にある器に少しずつ溜まっていく滴のようなものだとする。
 器はそれぞれ名前が違い、大きさや素材も違う。
 小さい頃の想い出などは、小さな、けれどとてもキラキラと、まるでその頃見ていた世界のような器に入っている。
 日常生活の記憶なんかは、きっととても広くてちょっと荒い器に入っていて、流れ込むと共に少しずつ零れているのだろう。
 そして、誰かとの想い出も、その相手に応じて器が違っている。家族、仲間、友達、先輩、後輩、先生、知人、他人。
 溜まっていくのは、色は少し違うけれど、皆同じ滴だと思っていた。入る時の大きさが違っても、どれも綺麗に同化する。
 そう、無意識に考えていた。

 ある日、一つの器に勢いよく滴が落ちた。
 ミルククラウンなんて綺麗なものができるはずもないくらいの、強い勢いで。
 落ちた滴自体は、変わったところのないもの――のはずだった。
 なのに、頬が急に熱くなった。

 落ちた滴も熱を帯びて、おさまらない波紋を後に下へ下へと沈んでゆく。
 そこで、初めてこの滴の比重がほかのものとは違うことに気づいた。
 滴は、一定の温度を保った水中に落ちていったのに、熱は失われるどころか増すばかり。
 それと共に、淡い淡い桜色だったのが、どんどん濃くなっていく。
 滴が底につくと、今まで気づかずに溜まっていた同じ比重の滴も、鮮やかな桃色に色づいてゆく。
 かきまぜたらとろりとしているのであろう底に溜まったカラフルな滴。

 それが何であるのかを自覚してしまったら、まるでその器が火で炙られているかのように熱く感じた。
 頬に、耳に、全身に灯ったのと同じ熱。
 ――「恋」という、なんとも厄介な熱だ。
 その熱で煮詰められゆく想い出は、どろりと粘着度を増して、濃い色と相まってまるでジャムのよう。

 それ以来、器の相手の言動全てにそのジャムは勝手に塗りたくられるようになった。
 そこに何の色もないことなどわかりきっているはずなのに、自分の視界から見れば甘く色づいていて。
 ふわり、とするはずもない甘い香りが漂っている気すらする。

 だからなのだ、きっと。

 見開かれた彼の目が、まさに眼前にある。
 唇に触れるのは、彼のそれ。
 甘い香りに惹かれて、舌を伸ばす。
 途端に、後頭部をぐっと引かれた。
 彼に占められた五感は、その全てにジャムがたっぷりと塗りたくられていて。
 まるで二人でジャムの中にダイブしたようだと感じながら、どろりとした熱に溺れた。
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