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冴雫
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お久しぶりです。
ちょっと放置気味になっていましたが、拍手してくださった方々、ありがとうございます。

さて、1月3日!
吉羅さんの誕生日ですね!
おめでとうございます!
本更新はなくて申し訳ないですが、SSSは書きました。
2012年設定。あんまり関係ないけど。



ついでに、このPCサイトも移転してから今日で3周年です!
マイペースサイトですが、これからもよろしくお願いします。






 いつもは静かなリビングに、テレビから流れる賑やかな音が響く。
 正月という時節柄、特別番組ばかりで占められる番組表に、吉羅の興味を引くものはほとんどなかった。
 普段ならば、すぐにチャンネルを変えるかテレビを消してしまうような番組をつけたままにしているのは、それを観ているのが吉羅ではないからだ。
 吉羅の斜め前のソファーに座った香穂子は、テレビに目を向けてはいるが、気もそぞろな様子だった。
 昨夜、香穂子が泊まりに来た時からずっと。
 最初は、明日――つまり今日、1月3日が吉羅の誕生日だからだろうと予測した。
 実際、0時になった途端に祝いの言葉を言われた。
 ただ、自らの荷物とは別に持っていた紙袋の中身をプレゼントとして渡されるのかと予想していたのに、紙袋はいまだ部屋の片隅に香穂子の所有物として鎮座している。
 あれをいつ渡そうか迷っているのか、と察してはいるが、吉羅はまだ水を向けるつもりはなかった。
 香穂子が何をこんなに躊躇しているのか、その理由がけしてマイナスに起因するものではないと確信しているからだ。
 だとすれば、吉羅の為にぐるぐると回っているだろう思考と、それに連動してころころ変わる表情を観察するのも面白く、何より愛しい。
 そんなことを考えながら、少し冷めてしまったコーヒーを口に運んでいると、「2012年」という単語が耳に飛び込んできた。
 発生源に目を向けると、番組だか、その中のコーナーだかのタイトルコールが流れたようだった。
 吉羅は目線を画面に固定したまま。けれど焦点は僅か遠くに結ばれる。
 もう、2012年。
 香穂子と出会ったのは8年前、西暦や年号で言えば9年前となってしまった。
 長いようで短い、短いようで長いこの年月。
 吉羅と香穂子の関係は、言葉にできない曖昧さを多分に孕みながら変化して、今は「恋人」という関係に落ち着いている。――けれど…………。
 自らの思考に埋没していた吉羅に、遠慮がちな声がかかった。

「……あの、暁彦さん」

 吉羅が現実へと意識を引き戻すと、香穂子はもぞもぞと居住まいを正し、背筋をピンと伸ばして吉羅を真摯な眼差しで見つめていた。
 足元には、いつの間に持ち運んだのか紙袋が置かれている。
 その中から、綺麗にラッピングが施された箱を2つ取り出し、テーブルに置いた。

「誕生日プレゼントです!」
「ああ、ありがとう」

 手を伸ばし、まずは細長く、軽そうなほうの箱を取る。
 かけられていた赤いリボンを解き、黒い包装紙を剥がす。
 蓋を開けると、納まっていたのはワインレッドのネクタイ。
 感想を言おうとひらきかけた口は、もう一つも早く開けてほしいと強く訴える視線に押される。
 無言の要望に応え、 吉羅は大きな箱のほうに取り掛かった。
 香穂子の様子を見て、こちらはある程度重量のある、食器か何かかと目星をつけていたので、丁寧に包装を解いていく。
 果たして、中に納まっていたのは食器だった。
 茶碗にしては少し大きい、しかし粥を入れるには丁度いいサイズの器と、れんげがそれぞれ2つ。
 ネクタイといい食器といい、今年は随分定番なものだ。
 これらを渡すのにあれ程緊張していたのか、と僅かに拍子抜けしながらも改めて礼を言おうと面を上げた吉羅の目に、いまだ真剣な表情をしたままの香穂子の顔が映る。

「暁彦さん」

 静かに、しかし強い意思を込めて名前を呼ばれる。
 すぅ、と香穂子が息を吸ったのがわかった。

「ネクタイを、私に毎朝結ばせてください。茶粥も、毎朝一緒に食べさせてください」

 吉羅は、大きくゆっくりと瞬きをした。
 放たれた言葉が、じわりと脳に染みてゆく。
 発言の意図を理解すると、吉羅は思わず笑みを零した。
 8年の付き合いがあるが、香穂子の言動はいまだに読めない。
 くっくっ、と喉を鳴らす吉羅を、香穂子は耳まで真っ赤に染めながらも見つめる視線を逸らさない。
 それどころか、にっこりと笑ってみせた。

「四十路の独身男性に若奥様、っていいプレゼントだと思いません?」
「プレゼントは君の人生、というわけかね」

 しかし、香穂子はゆるりと首を振った。
 テーブルに置かれていた赤いリボンを取り、自らの手首に蝶々結びをする。
 腕を上げ、それを吉羅に見せつけるように軽く振る。

「人生だけじゃなくて『私』をあげます」

 言い切り、もう何も入っていないはずの紙袋に手を入れる。
 そして、一枚の紙切れを取り出した。
 薄っぺらいその紙切れは、けれどその質量にはとうてい見合わない重さを持っている。
 婚姻届。
 そう印刷された紙には、既に香穂子の名前や住所などが記入されていた。

「……これは、別に今記入してほしいってわけじゃないんです。ただ、決意の証っていうか……」

 恥ずかしさをごまかすように早口で言い訳じみたことを述べると、香穂子は今まで抑えていた羞恥が一気に襲ってきたようで、俯いて押し黙ってしまった。
 そんな香穂子を見ながら、吉羅は腰を上げる。
 華奢な肩がぴくりと震えるのを横目で捉えながら、ペンを取ってソファーに戻った。
 そして、婚姻届を手元に引き寄せ、吉羅の名前と住所を書き込んだ。
 驚いたように吉羅を見る香穂子に、唇を歪めてみせる。

「この書類は、一人だけの決意では成り立たないだろう? ――届けを出す時は、私が用意したものに記入してもらうが」
「え? え?」

 香穂子は混乱して、疑問符ばかりを浮かべていた。

「これは、君からのプレゼントの『証』だ。丁重に保管させてもらうとしよう」

 それに、と吉羅は言葉を切って再び立ち上がり、香穂子の元へと歩み寄る。

「私にもプロポーズをさせてほしいからね」

 香穂子の左手を掬い取り、薬指へと唇を落とす。
 そして、香穂子の手首に結ばれたリボンの、余った片端を自らの手首へ絡ませ、結んだ。

「今度の君の誕生日には、君が今日くれたものに釣り合うものを贈ろう」

 ――もうとっくに、『吉羅暁彦』は香穂子に大部分を占められてしまっているけれど。
 柔らかいリボンで、しかし頑健な手錠のように、そして運命だという赤い糸のように二人を繋ぎ、吉羅は未来の妻の唇にそっと口づけた。





後書

婚姻届を突き付ける香穂子が浮かんで、頭から離れなかったので書いてみました。
誕生日ネタはプレゼント内容に悩みますね。

あと、書きはじめは、コルダ3キャラを回想とかでちらっと登場させる予定でした…が跡形もないですね。
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