「じんと染む」直前の話。
ちょっと補完ぽい感じ。
一応知盛誕…のつもりだった。
知盛誕生日おめでとう!
ちょっと補完ぽい感じ。
一応知盛誕…のつもりだった。
知盛誕生日おめでとう!
「はい、知盛」
和議が終わっても、将臣と同じく京に住んでいる望美が、唐突に平家の屋敷へとやってきた。
そして、物忌みと称して邸内でごろごろしていた知盛のもとへ来ると、小さな紙束を突き出したのだ。
たまたま知盛に声をかけにきていた将臣の目の前で。
「なんだ……これは……」
知盛は受け取りもせず、視線だけでそれを指し示してその正体を問うた。
「いいから受け取る!」
望美は、紙束を知盛の手に捩込むようにして受け取らせると、にっこりと笑顔で言った。
「誕生日おめでとう、知盛。それ、誕生日の贈り物」
理由を聞いて、将臣はああと手を打った。
昔、平家の皆の誕生日を聞いたことがあり、前に望美にそれを伝えたことがあったのだ。
「ちなみに、『剣の手合わせ券』だよ」
「『剣の手合わせ券』? 『肩たたき券』じゃあるまいし」
「券」という、ある意味子供の思いつきのようなプレゼントに、将臣は思わず突っ込みをいれた。
すると、望美は頬を膨らませて反論する。
「しかたないじゃない。知盛が喜ぶものなんて、剣の手合わせくらいしか思いつかなかったんだもん」
知盛が喜ぶもの、と考えれば確かに妥当かもしれない。
それに、と望美は続けた。
「重衡さんのはちゃんと用意してるよ。香だって自分で合わせたし」
ほら、と言って見せたのは、少し不格好な布袋だった。
それをひょいと持ち上げ、匂いを嗅いでみる。
すると、ふわりと沈香を基本とした香がただよった。
「ああ、こっちが本命か」
今日は9月24日。
知盛の誕生日は23日、昨日だったのだ。
しかし彼の弟、重衡の誕生日は今日。
望美が重衡を意識していることは、本人に問いただすまでもなくわかる。
重衡も、望美に対してはどこか態度が違う。
なのに、二人は最初に出会った頃と同じ距離のまま、一歩を踏み出せずに立ち止まっているようだった。
望美がわざわざえび香を作ったのは、その一歩を進めるためなのだろうか。
「なっ、本命って……! 私は、知盛の誕生日もちゃんと祝ってるよ!」
「そうだな。で、この後は重衡も祝うんだろ? そろそろ帰ってくると……お、噂をすれば影、ってか」
将臣がふと視線を向けた先に、重衡の姿があった。
知盛を複雑な顔で見た後に、踵を返そうとする。
そこで、将臣の視線をたどった望美が声をかけた。
「あっ、重衡さん!」
途端にぱあっと華やいだ顔で、望美は重衡へと早足で寄って行った。
「やっぱり本命じゃねぇか」
言いながら、手に持ったえび香をぶらりと揺らす。
そこで、望美がこれを忘れて行ってしまったことに気づき、部屋の外に顔を出して呼びかける。
慌てて受け取りにきた望美に、えび香を奪われるようにして渡す。
それを笑って見送り、重衡に言葉をかけながら、将臣はもどかしい二人が今日という日を境に少しでも関係を変えればいいのに、と願った。
贈り物を渡されたきり目を閉じてしまい、起きているのだか眠っているのだかわからない知盛をどうしようか悩みながら。
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更新履歴ブログ「冴雫」。たまに小話か萌え語りカテゴリでSSS投下。
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