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冴雫
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SSS書きたい衝動が…!
というわけで、銀望。
やっぱり夏の話。
今回は「はい、あーん」を望美にさせたかったのに話が思いきりずれた。

勢いで書いてるので間違ってたり矛盾してたりするかも。






 七月下旬の昼下がり。
 夏の日差しは突き刺すような激しさをもって降り注ぎ、風は湿気を運んでくる。
 そんな中、望美は受験勉強の合間を縫って銀とデートをしていた。

 あまりの暑さに大粒の汗を流した望美を心配したのか、銀は道端にあった喫茶店に入ることをすすめる。
 さすがに頭がぼーっとしてきていた自覚のあった望美も頷き、二人は冷房が効いて涼しい店内へと入った。

 席につき、すぐに目の前に置かれた氷の浮いた水を飲み、望美はようやく息をついた。
 それでもまだ暑さは纏わりついて、メニューの中から冷たいものを探す。
 ジュースを飲もうか、かき氷を食べようか、と悩みながら正面に座る銀の顔を窺うと、彼は汗一つかかない笑顔で望美を見守っていた。
 猛暑日だというのに、七分丈のカットソーに、薄い生地の長袖を羽織ってその表情。
 望美はひっそりと息をつきながら、メニューの狙いを定めた。

「……暑いし、かき氷にしようかな。う~んと、いちごミルクで。銀は?」
「私は紅茶にしようかと。注文してしまってよろしいですか?」
「うん」

 すぐに銀がウエイトレスを呼び、注文をする。
 望美は、汗を浮かべたコップに手を伸ばしながら首を傾げた。

「ホットなんだ? 銀、暑くない?」
「いえ。こちらの服装はとても涼しくできておりますから」

 銀の台詞に、望美は京での夏を思い出した。
 暑いというのに、長い衣を何枚も重ねていた。
 望美も下はスカートだったが、上は着物、さらに陣羽織まで着ていたのだ。
 それで夏の京やら熊野やらを歩き回ったのだから、今考えると、よく堪えられたものだと思う。

「あっちは着物だったもんね」

 目をつむると、すぐに光景が蘇る。
 万緑というに相応しい、生命力に満ちた深緑の木々。
 強く眩しく、地を照らしていた太陽。
 蒼い空と碧い海に浮かぶ、白い雲と波。
 輝く景色の中で、笑っていた仲間達。
 ――なんの因果か、一時行動を共にすることになった男。

 目の前の銀に、見かけはよく似た男の姿が一瞬重なり、望美はそれを振り切るように窓の外を見た。
 現代の建物が視界の大半を占めるが、望美はその景色も好きだった。
 気持ちを落ち着けて銀に顔を戻すと、ちょうど注文品が運ばれてきた。

「お待たせいたしました」

 ことり、と置かれたかき氷は、見た目からして涼しげだ。
 望美はいただきます、と言って早速ピンク色の富士山を崩しにかかった。
 ふわふわの氷は口に入れるとすぐに溶け、残るのは冷たさと甘みだけ。

「う~ん、冷たい!」

 冷房によって汗も引き始めており、更なる涼を求めて望美はかき氷を食べ進めた。
 銀はそんな望美を目を細めて見守りながら、優雅な仕種でカップを口元に運んでいた。

 時折会話をしながら同じ動作を繰り返していた望美だが、そのペースが段々と落ち、山を三分の二程崩したところでその手を止めた。
 露出した二の腕をさすり、残りのかき氷をじっと睨む。

「神子様?」

 不思議に思った銀に声をかけられた望美は眉根を寄せ、ひきつった笑みを見せた。

「さすがに寒くなってきちゃって……」

 銀は即座に立ち上がってテーブルの脇に行くと羽織っていた長袖を脱ぎ、望美に着せかけた。

「私の着ていたもので申し訳ありませんが、こちらを」

 ぬくもりに触れ、寒さで強張っていた望美の肢体が緩む。

「ありがとう。でも、銀が寒くなっちゃわない?」
「私は、寒さには強いですから」

 この言葉に、望美はやはり京のことを思い出した。
 夏の熊野とは正反対の、冬の奥州。
 深い雪に覆われたその地で、銀は信じられない程薄着をしていた。
 躯に包帯を巻いた上に上着が一枚、しかもところどころ包帯が垣間見えるという、見ているこちらが寒くなるような服装だったのだ。

「暑さにも寒さにも強いなんて、すごいね」

 望美も、京での過酷な環境を幾度も過ごしたが、根は現代の高校生。
 便利なものに囲まれた生活に戻れば、あっという間にそちらに順応してしまう。

 京では夏に入手するのが大変だった氷のことを考えれば、これも文明の利器の結果か、とかき氷に視線を戻す。
 その向こう、席に戻った銀が、すっと手を伸ばし、望美のスプーンを持つ手に重ねた。

「銀?」
「お寒いのでしょう? 無理はなさらないで下さい」
「でも、ちょっともったいないし……。あ、銀が食べる?」

 冗談半分の問いかけに、銀は頷いた。

「はい」

 そして、何故か手を離して望美を見つめる。
 銀の意図を察し、望美は僅かに頬を染めながら氷の小山にスプーンを差し込んだ。
 冷房の効いた室内とはいえ、時間が経っているので氷は溶けてきている。
 溶けてくっつき、少し大きくなった固まりを載せ、望美はスプーンを銀に差し出した。
 小さく震えるそれの先端を、銀はぱくりとくわえ込む。

「……おいしいですね」

 口を離し、微笑んだ銀は、眼差しで次を促した。
 望美が躊躇いながらも従い、それを幾度か繰り返すと、透明な器にはカラフルな液体が残るのみとなった。

 銀も紅茶を飲み終わっており、二人はそろそろ店を出ようと席を立つ。
 一足早く立ち上がった銀が伝票を取り、忘れ物などがないかを確認すると席を離れた。
 入口横のレジで、銀は会計をする前に望美に先に外に出ているようにと言った。
 その言葉に素直に従い、望美はドアをくぐる。

 外に出た途端に太陽が肌を焼こうとするが、直射日光は銀の服に遮られ、冷房で冷えた望美の躯には気持ちいい程の熱さだった。
 手をかざして空を見上げようとすと、影に覆われる。
 いつの間にか店から出てきていた銀に、望美は羽織っていた長袖を返した。
 まだ少し寒さが残るから、と誰にともなく言い訳をして、望美は銀の腕を取った。
 微笑んで腕を絡める銀と顔を見合わせ、道を歩き始める。
 重なった影が、二人の足元を濃く彩った。
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