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冴雫
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最近、暑い日が続きますね~。
まだ6月なのに…。

と、いうわけで今回「暑い~」と思ってたら浮かんだ話です。
暑いと髪切りたくなる→銀は望美が髪切るのを嫌がりそうという単純な連想ですが。
話にはあんまり関係ないですが、銀って暑くても涼しげな顔してそうですよね。
芸能人みたく、顔に汗かかなそう。



SSSのタイトルは「かみかたち」です。
どうにも思いつかなくて、髪型とかヘアスタイルだとそのまますぎるかなと辞書ひいて字面がちょっと違うものを。
まあ、意味は結局一緒なんですが。






 強い日差しが照りつけ、湿気が体に纏わり付く初夏の休日。
 銀の前には、氷で冷やされた麦茶をおいしそうに飲む望美が座っていた。
 彼女の髪は高い位置で一つに結ばれており、開け放した窓から入る風が後れ毛を揺らす。
 氷だけになったコップをテーブルに置くと、望美は脇にあった団扇をとり顔をあおいだ。

「今日も暑いね~」
「はい。なんでも、猛暑日というものだとか。この暑さで倒れる方も多いと聞きます。神子様、お気をつけください」

 銀は、テレビで聞き及んだ知識をもとに望美を気遣う。
 現代では京にいた頃とは比べものにならないくらい簡単に涼がとれる。
 京では入手が難しく高価だった氷も自宅で手軽に作れ、冷蔵庫に入れておけば飲み物は冷えた状態を維持できる。
 特に冷房という機械はスイッチ一つで気温を調整できる便利なものだったが、望美は冷房を入れようとはしなかった。
 なんでも、京で過ごした影響で、冷房に慣れぬ身体となってしまったらしい。
 銀自身も便利ではあるが身体が冷えすぎる冷房はあまり好まない為、二人がいるこの部屋は自然の涼に頼っている。
 けれど、緑が少なく、アスファルトに照り返された熱が加わる現代では、京に比べて暑さがのしかかるように感じられた。
 それゆえに口に出した望美を心配する言葉だが、彼女はからからと笑った。

「私は大丈夫だよ。水分だってとってるし。でも、こう暑いと髪の毛をばっさり切りたくなるね」

 動かしたままだった手をはたと止め、望美は自分の頭に手をやった。

「髪をお切りになられるのですか?」
「ううん、言ってみただけ。でも、小さい頃から長いから、たまには切ってみるのもいいかな。思い切ってショートカットとか」

 ゴムを抜き取ると、髪がさらりと流れ落ちる。
 そして望美は、少しだけ結び癖のついた髪の、ショートカットの位置あたりを指先で挟み込んだ。
 それを見守る銀は思案げに瞼を伏せ、微かに沈んだ声音を出した。

「ショートカット……ですか」

「え、変かな?」

 望美は焦って手を離し、銀の意見を聞こうと勢い込んで身を乗り出した。
 それに視線を合わせた銀は、ゆるりと首を横に振る。

「いいえ。神子様ならばどのような髪型でもお似合いになります。短い髪となっても、さぞ可愛らしいことでしょう。けれど……」
「けど?」

 首を傾げた望美の髪に、銀は手を伸ばす。
 サイドの髪を掬い取るように指を入れ、一筋をくるりと巻き付けた。
 そのまま指先を滑らせて自身の胸元まで髪を導くと、うやうやしく唇を寄せる。

「このようにあなたの髪に触れることができなくなってしまうのは、残念です」

 捕らえたままの髪に、吐息が触れる。
 暑さで赤かった頬をさらに紅潮させた望美が、銀に捕われた髪を掴んで引き戻そうとする。

「しっ、銀! 例え話だから! 本当に切ったりしないから!」

 望美の動きに従い、銀の掌から離れた髪。
 それを追うように再び銀の手が伸ばされ、望美の頬に触れる。

「ならば、ようございました。他人にあなたの髪を傷つけられるのは、堪え難いですから」
「傷つけるって……。お願いして切ってもらうんだし、相手は美容師さんだよ?」

 銀の反応をおおげさと捉えたのか、望美は困ったように笑った。
 銀はそれに頷きを返す。

「ええ、承知しております。ですが、あなたの髪に――あなたに触れるのは私だけでありたいのです」

 独占欲が強いものですから、と微笑みながら告げ、顔の輪郭に沿って指を滑らせた。
 指先がおとがいへ辿り着くと一度離し、眉間に貼りついた髪をかき分ける。
 上半身を屈め、あらわになった望美の額へと口づけを落とす。
 瞬間、一層強く吹き抜けた風が望美の髪をなびかせる。
 ちりん、と涼やかな音をたてた風鈴が、熱い空気を揺らした。
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