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冴雫
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前にtwitterでつぶやいたネタを書いてみた。



>土砂降りの時に将臣と望美が傘忘れて昇降口でどうしようか話してて、そこに譲が通りがかって、でも手にしてる傘が一本だから将臣と望美が顔見合わせてやっぱりどうしよう、って顔してたら譲が鞄からさっと折りたたみ傘を取り出して、それを望美に渡す →

>→ で、自分は将臣と二人で普通の傘。本当は将臣に折りたたみ傘貸し付けて自分は望美と相合い傘したいけど、雨がすごいから一番濡れずに済むように一人でさせる折りたたみ。と、いうのがふと思い浮かんだ。将臣→望美←譲な関係で。

>将臣は一人なら傘ささずに駆けてってもいいけど雨がすごすぎるし、それして傘が別でもあえて譲と望美二人きりにさせるのも複雑だしとかで、結局譲と一緒の傘に入って三人でわいわい言いながら帰ってるといいな。有川兄弟は肩はみ出しちゃって濡れちゃうんだけど、文句言いつつ配置は変えない。









 周辺の音も景色も遮る、雨の緞帳が降りた平日の夕刻。
 鎌倉高校の昇降口に、夏服姿で佇んでいる二人がいた。

「雨、すごいね。しばらく止みそうにないかな。こんな時に限って二人して傘忘れるなんて、ついてないよね」

 少しだけ張り出した屋根の下から、空と地面を見て雨の強さを推し量った望美が、覇気のない息をつく。
 望美の言葉通り、彼女が手に持っているのは鞄だけで、雨の中に出るには必要な傘は見当たらない。
 それは望美の隣にいる将臣も同様で、彼はひょいと肩を竦めて言葉を返す。

「忘れたもんは仕方ねぇだろ。――走っても意味なさそうだし、いっそ歩いて帰るか?」
「ええ~。……でも、ほかに方法ないよね。せめて、走って駅まで行こうよ。教科書とノートが濡れたら困るから、今日は教室に置いてくことにして」

 一度はげんなりとした表情で不満の声を上げた望美だが、再び空を見上げ、分厚い灰色の雲が天を覆い隠しているのを眉間に皴を寄せて睨みつけた。
 数秒そうした後、止む気配を感じ取ることのできない雨に覚悟を決めたのか、せめてと被害を減らす方法を検討し始める。

「また教室まで戻んのか?」

 将臣が振り返って校舎内を見ようとした時、背後から声がかけられた。

「――忘れ物でもしたのか?」

 生真面目さを音からも悟ることのできる声の持ち主は、男性用のしっかりとした傘を手に軽く首を傾げていた。
 将臣は外を背にするように声の主である弟に向き直り、肩までの高さまで上げた手を横に何度か振り払う。

「違う違う。忘れ物じゃなくて……いや、忘れ物はしたんだが。俺たち二人とも、傘を忘れたんだよ。だから、教科書なんかの濡れたらやばいもんを教室に置いて、走って帰ろうかってな」
「この土砂降りの中を? そもそも、今日は雨の予報だったから傘を持って行くように、って朝に言っただろう?」
「忘れてた」
「まったく……」

 呆れを隠さずにため息をついた譲に対し、将臣は飄々とした顔のまま、口を開いた。

「ちょうどよかった。譲、その傘に望美入れてってやれよ」
「えっ、将臣くんは?」
「俺は走ってく。三人はきついだろ」

 じゃあな、と言い置いて踵を返した将臣の背に、譲の制止の声がかかる。

「兄さん、話は最後までちゃんと聞けよ」
「なんだ? まだなんかあるのか?」

 再び将臣が振り返ると、鞄の中を探っていた譲がいつの間にか折りたたみ傘を手にしていた。
 その折りたたみ傘を、譲は反射的に手を伸ばした将臣ではなく、斜め前にいた望美へと手渡す。

「――はい、先輩。折りたたみなので小さいですが、よかったらどうぞ」
「あ、ありがとう」

 予想外の展開に、手を差し出したまま動かない将臣の横を譲が通り過ぎる。
 少しだけ張り出した屋根の下で留め具を外し、軽い音を立てて傘を広げる。
 将臣が昇降口の外を見ると、譲は片側に空けたスペースを示すように傘を揺らした。

「ほら、兄さんはこっち」

 ああ、と少し気の抜けた返事をして、足を動かした将臣の後ろから、望美が小走りで二人へと駆け寄ってくる。

「あ、待って! 男の子二人だと傘は狭いんじゃない? こっちの折りたたみは、譲くんか将臣くんが……」

 望美の三人の体格を考えた上での発言に、譲は優しく微笑んだ。

「だから、ですよ」
「え?」

 文脈が掴めずに瞬きをした望美に、譲は説明を始める。

「二人で差すと、どうても濡れる可能性が高くなりますから。先輩を濡らしてしまうほうが心配です。俺たちなら、多少濡れたところで大丈夫ですよ。頑丈ですから。それに、背丈が近い相手のほうが差す時に楽なんですよ」
「でも……」

 それでも遠慮をみせる望美に、将臣も声をかける。

「ま、身長差あると傘が傾いて雫が肩に垂れたりしやすいからな。どうせ俺は走って帰るつもりだったし、入れてもらえるだけラッキーだ」

 お前は小さいし、とのニュアンスを込めた言葉に望美は眉をぴくりと上げた。
 そうして気が逸れた隙に、将臣は譲の持っていた傘の柄を奪い、さっさと歩き始めてしまう。

「ほら、行くぞ」

 雨の中に踏み入った二人を追い、望美は慌てて傘を開く。
 折りたたみなので多少時間のかかった動作の間も、二人は昇降口から数歩行った所で待っていた。
 傘を持つ将臣の手は、自分の反対側に向けて傾けられている。
 それが背丈の差によるものだけではないことは、既に濡れている将臣の肩が示していた。

「――お待たせ」
「いえ。先輩、足元にも気をつけてくださいね。……兄さん、傘は俺が持つよ」
「いいって。こういうのは背が高いほうが持つのが楽なんだよ」

 譲の伸ばした手をひょいと避け、将臣は歩みを再開する。
 その将臣や彼を追う譲と望美の足音や、交わす会話の音も、雨の緞帳へと吸い込まれていった。





後書
予想より早く書けた…けど、最初に浮かんだのと違います。
前回の記事に書いたのと違い、譲くんじゃなくて将臣くんメインっぽくなってるし。
まぁ、こないだまで将望連作書いてたから…。
今度は、譲メインも書いてみたい。……書けたら。
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