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冴雫
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ふと話が書きたくなって、「なんかネタないかな…」と携帯電話の未送信ボックス(メモ代わり)見てたら、吉日で書こうと思ってたネタだけど銀望で浮かんできたので書いてみた。
SSSにしてはちょっと長め?でぐだぐだだけどキニシナイ。






「――ねえ、銀。お願いがあるんだけど……」



 望美がそう切り出してきたのは、現代に来て一月ほどの銀が間借りしている、有川邸のリビングでのことだった。
 有川夫婦は仕事で出張、将臣はバイト、譲は部活と出払っており、有川邸には銀と望美しかいない。

 そこで銀は、携帯電話の機能を望美に教えてもらっていた。
 電話とメールの仕方は一番最初に覚えたが、ほかの機能も使えたほうが便利だろう、と銀がある程度現代の生活に慣れた現在、改めてレクチャーを受けているのだ。

 今は、カメラ機能について話しているところだった。
 銀はカメラの説明は以前うけたことがあり、風景を切り取って保存できるという便利さ、そして現代の文明に驚いたものだ。
 その機能がこんなに小さな携帯電話にもついていると聞き、銀は望美の少したどたどしい説明を真摯に聴き入っていた。

 それは説明内容よりも、望美の発する声や仕種に大きく比重が置かれていたが、どちらにせよ望美の一言一句を記憶していくことに変わりはないので、カメラ機能の利用法も順調に覚えていく。
 事前に自分で携帯電話の説明書に目を通そうかとも考えたが、望美がどう説明しようか頭をひねっているのを見たら、その努力を無に帰すような真似はできなかった。

 そうして一通りの説明を終えると、望美は「習うより慣れろって言うよね」などと呟いて銀に携帯電話を握らせた。
 カメラ画面のままのそれを、望美が指示したように部屋の片隅にある花瓶へと向けると、望美が銀の手元を覗き込んだ。

「そうそう。そのまま、決定ボタンを押して……」

 言葉に従いボタンを押せば、パシャッと機械音がして画面が暗くなり、すぐに撮影したばかりの写真が表示される。
 撮った時には少しぶれてしまったかと思ったのだが、写真は意外と綺麗に写っていた。

「そうそう。銀、上手だね。今度は花を撮ってみようか? 拡大機能があるから……」

 銀に画面を見せながら望美が携帯電話を操作し、接写モードにする。
 先程までくっきりと映っていた花瓶がぼやけ、望美に促された銀が花瓶へと寄って花にカメラ部分を向ければ、可憐な花が画面を埋めつくした。
 そのまま決定ボタンを押すと、拡大された花が綺麗に画面におさまる。

 花の写真も綺麗に撮れたことに気をよくしたのか、望美は次はシーン別撮影で料理だ、風景だと様々なものを試そうと提案し、銀は望美の言うがままに写真を撮っていった。
 そのうち、望美も写真を撮りたくなったのか、自分の携帯電話を取り出した。
 カメラ機能を呼び出し、少しいじってから携帯を胸元に引き寄せて銀を上目遣いで見た。
 そこで、先程の台詞である。

「――ねえ、銀。お願いがあるんだけど……」

 望美の願いならば一も二もなく叶える心積もりの銀であるが、一応は内容を聞こうと、先をうながすように首を傾げた。

「携帯電話で、銀の写真を撮ってもいい?」

 銀は即答した。
 考える時間など必要ない。

「もちろんです。神子様のお望みのままに」
「ありがとう! じゃあ、えっと……そこのソファーに座ってもらっていい?」

 望美の誘導するままにソファーに腰を下ろした銀は、指示されるまでもなく柔らかな笑みを浮かべていた。

「私はどのようにしていればよろしいでしょうか?」
「そのままでいいよ。あ、でも視線はこのレンズに向けて、ちょっと止まっててね」

 携帯電話を構えた望美を見つめたくなるのを堪え、銀は望美の携帯電話についているレンズへ視線を向けた。
 銀のものと同じシャッター音がして、望美が僅かに赤く染まった顔を上げる。

「もういいよ。ありがとう、銀」
「いえ。――神子様。私にもあなたの写真を撮らせていただけませんか?」

 望美が携帯電話を閉じると、今度は銀が望美の写真を撮りたいと言い出した。
 少し迷いを見せた望美だが、先に同じことを言い出しのは望美なので、躊躇いがちながらも承諾する。

「……いい、よ。操作の仕方はわかる?」
「はい」

 ソファーから立ち上がり、逆に望美をソファーに座らせた銀は、携帯電話を素早く操作し、室内、人物を撮影するモードを選んだ。
 その携帯電話を望美へと向けるが、照れているのか、はにかんだ笑みながら固さが抜けきっていない。
 しかし、銀は「緊張している神子様も可愛らしい」と心のうちでつぶやいてシャッターを押した。
 撮れた写真は本日一番の出来だと、銀は望美の可愛らしさを再び内心で賞賛し、これをいつでも見れるようにしようと望美に問い掛けを発した。

「確か、撮影した写真は待受画面にできるのでしたね? どのようにすればよろしいのでしょうか?」

 すると、望美は銀を手招きし、ソファーの隣に座らせると銀の携帯電話を操作し始めた。

「どの写真を待受にしたいの?」
「今撮った、神子様の写真です」

 銀の言葉に、望美の動きは止まった。

「しっ、銀。さすがに、待受画面にするのは……」

 わたわたと慌てる望美の控えめな拒絶を感じ、銀はその考えは捨てることにした。
 それに、いつでも見られるというのはもったいない点もある。

「――そうですね。あなたの可愛らしい姿を目にするのは、私だけでいいのですから」

 他人の携帯電話の画面を見るなど、よほど親しい物か無作法者、偶然目に入ってしまった者のものだが、万が一がないとは限らない。
 データは銀の携帯電話に入っているのだし、操作さえすれば好きな時にいつでも見れる。
 そう納得した銀は、覚えたばかりの操作をして、望美の写真データを本体とmicroSDに複数枚ずつ保存した。
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