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冴雫
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twitterで、名言を定期的にポストするbotがグリル・パルツァーの『接吻』をつぶやいていたのを以前目にして、気になってたので銀望で書いてみました。
結構目にする詩ですよね!

定番すぎるかな、とも思ったんですが、定番だからこそやってみたかった。

最近、もっと細かいのも見るんですが、あっちは元ネタなんなんでしょう?






 リビングのソファーに腰掛け本を読んでいた銀が、本をぱたりと閉じた。

「――神子様。グリル・パルツァーという方の詩をご存知ですか?」

 銀の隣、本を読む彼の邪魔にならないようにひと一人分の隙間を空けて座り、雑誌を読んでいた望美は、雑誌をテーブルに置いて銀に顔を向けた。

「グリル……誰? う~ん。どんな詩なの?」

 首を傾げた望美の手を、銀はエスコートするように掬い取った。
 手の甲に口づけ、うたうように詩を詠む。

「『手の上なら尊敬のキス』」

 驚いて目を丸くした望美の後頭部を片手で抑え、もう片手で前髪を避ける。

「『額の上なら友情のキス』」

 額に口づけたかと思うと、身を少しだけ引いて、顔を下方へと移動させる。

「『頬の上なら厚情のキス』」

 頬に触れた唇を少しだけ浮かせて言葉を続ける銀の吐息が、望美の唇に触れる。

「『唇の上なら愛情のキス』」

 軽く啄むようなキスに、望美は思わず今まで驚きに開いたままだった目を閉じてしまう。
 すると、熱が今度は瞼に落ちる。

「『閉じた目の上なら憧憬のキス』」
「しっ、しろがねっ……」

 望美は銀の行動を止めようと、目を開くと同時に彼の服の胸元を引っ張った。
 しかし、その手は優しく捕えられ、手首を掴まれたまま、銀の唇の前まで持ち上げられた。

「『掌の上なら懇願のキス』」

 望美の手で半分が隠れた銀の顔で、瞳だけがじっと望美を見ていた。
 その瞳がすっと細められ、望美を捕えたままの腕をさらに斜め上に持ち上げ、露出している腕に唇で触れる。

「『腕と」

 腕を引かれ、バランスを崩した望美を抱いて、後ろ髪を片手でまとめ、首筋に吐息と熱を落とし軽く食む。

「首なら欲望のキス』」
「しろっ……!」

 慌てて身を起こし、首筋を押さえた望美の髪を一筋絡め取り、見せつけるように唇で触れる。

「『さてそのほかは、みな狂気の沙汰』――というものです」

 言い終わると、銀は望美から身体を離した。
 拳一つ分だけ空いた距離で、望美は体勢を直して俯いた。

「……わっ、わかったけど……。なにも、実際に……」

 続きを音に出すには照れが邪魔をし、望美は口をもごもごとさせた。
 銀は望美のつむじを優しい眼差しで見下ろし、頭をそっと撫でる。

「――神子様。私の感情の全ては、あなたに向かっているのです。」

 撫でた手で望美の遠いほうの肩を包み、引き寄せる。
 そして、再び口づけを落とし始めた。
 まずは、うやうやしく手の上に。

「尊敬も」

 苦笑しながら額に。

「友情……は少し異なりますが」

 慈しむように優しく触れた頬に。

「厚情も」

 熱く、長く、唇に。

「もちろん、愛情も――」

 掠れた声音と共に、閉じた目の上に。

「憧憬も」

 乞うような眼差しで、掌に。

「懇願も」

 手首から腕を辿り、うなじに。

「……欲望も」

 さらに顔を上げ、耳朶に。

「狂気も――」

 銀は熱を持った囁きを望美の耳に吹き込んだ。
 それにびくりと反応した望美の顔を窺うように、銀色の髪が動く。
 近すぎて焦点の合わない距離で、望美と視線を合わせる。

「――私の全ては、あなたのものです」

 望美のおとがいを手で捕え、親指で唇をなぞった。

「あなたの全てを、とは今はまだ望みません。けれど、愛情は私に向けられているのだと、確かめさせていただけませんか?」

 顔を近づけ、唇同士が触れる直前で動きを止める。
 懇願する声音と熱い吐息に促され、望美は紙一枚の距離を縮めた。
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