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冴雫
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バレンタイン話をもう一つくらい書いてみたくなって書いてみました。
誰を書くのか迷ったので(私的)恒例のtwitterでのTLbot反応占い。

で、最初に反応したのは勝真さんだったんですが、遙か2は書いたことないので、2番目に反応したハル君で。
ちょっとキャラ違う気がしますが、自己満足なので気にしない…と唱え中。






「はい、ハルくん」

 差し出されたのは、透明な袋に入った手作りのチョコレート。
 左腕に下げている紙袋の中からは、同じ包装を施された袋がいくつも覗いている。
 オケ部の部員全員に配っているそれを、僕は礼を言いながら受け取った。

「ありがとうございます」

 女子にも配っているところを見ると、これは義理チョコと言うよりも友チョコなのだろうか。
 全ての部員に平等に配るのは公平でいいが、菓子を作る為に睡眠時間などを削ってはいないか。
 そう思って盗み見たかなで先輩の目の下には、案の定くまらしきものができていた。

「……先輩。夜更かししましたね?」

 音楽室にいる部員には配り終わったのか、目の前に戻ってきた先輩に確信を持って問いかける。
 答えは一つしか用意していないが。

 すると、先輩は曖昧な笑みを浮かべた。
 まるで悪戯が見つかってしまった子供が、ごまかそうと浮かべるような笑みを。

「――先輩?」
「あのね、もっと短時間で終わるはずだったんだよ? だけど、甘いものが苦手な人でも食べられるのを用意したり、ラッピングしたりしてたらいつの間にか……。それに、いつもよりはちょっと夜更かしと早起きしたけど、睡眠はしっかりとったし……」

 言い訳を連ねる先輩に言葉をかけるよりも先に、時計の針が練習時間に重なるのを目にしてしまった。
 休憩時の雑音が消えゆく室内で、僕は一言で練習後の約束を取り付けた。



 オケ部の練習が終わり、閑散とした部室ですっかり黒に染まった景色を背に、先輩は楽譜に目を落としていた。
 所用で出ていた僕を、一方的に押し付けた約束を守って待っていてくれたようで、思わず顔が緩むのを自覚する。

「お待たせしました」
「そんなに待ってないよ?」
「いえ、疲れていると知っているのに、引き留めてしまって……。――あの、これをどうぞ」

 時間を拘束してしまったことを謝罪しながら、手に持った箱を差し出した。
 中に入っているのはチョコレート。
 「逆チョコ」という言葉が気になって手に取り、ふいに先輩の顔が浮かんで、ついレジに持っていってしまったものだ。

「え? ……ありがとう。実はね、私もまだハル君に渡したいものがあったんだ」

 目を丸くした後にふわりて微笑んだ先輩は、練習の合間に手にしていたのとは別の、小さな紙袋を持っていた。
 そこから、先程のものよりもさらに丁寧にラッピングを施された、何倍も大きな箱を取り出した。
「はい。こっちは一つだけだからね?」

 受け取り、許可を得てその場で開けてみると、そこに納まっていたのはチョコレートケーキ。
 ケーキは丸く、一人では食べ切れないが家族で食べるには丁度よさそうなサイズで。
 けれど、それ以上に僕の心を揺さぶったのは、包装に一緒に包まれていたカードに書かれた言葉だった。

「大好きだよ」

 カードを読まれることに照れ臭そうにしながらもこちらを窺う先輩に、自然と口角が上がる。
 僕が返す答えは一つ。
 言葉だけでなく、眼差しに、物に込めた想いが伝わるように願いながら。

「――僕も、ですよ。」
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