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冴雫
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鬼は~外、福は~内!
ならぬ悪霊は~外、福は~内、を昨日体験してきました。

スパナチュプレミアとっても楽しかった…!

と、いうわけで、一日遅れですがプレミアの帰りに思いついた吉日の節分SSS。
twitterでネタだけつぶやこうと思ったら4日になっちゃったので、いっそ話書こう!と開き直りました。

SSSは追記から。






 2月に入って数日後の放課後。
 突然理事長室に押しかけてきた香穂子は勝手に皿を出し、その中にざあっと豆を広げた。
 一粒一粒数えながら、吉羅に向けて問いかけを発する。

「吉羅さんって今33歳ですよね?」
「ああ。それがどうかしたかね」

 肯定の後の質問に、香穂子はきょとりと瞬きをした。
 驚いたのか、豆を数える手が止まっている。
 動かない指を皿に置いたまま、香穂子は首を傾げた。

「今日、何の日か覚えてます?」
「今日は――2月3日か。……節分かね」

 日付を口にして自ら答えを導き出し、吉羅は軽く頷いた。
 しかしそのことに感慨などないようで、「それで?」とでも言うような視線を投げかけてくる。

「さすがに理事長室で豆まきはできないので、せめて豆を食べてもらおうと思って」

 話しながら数え終えたようで、香穂子は豆を載せた皿を前に満足そうな表情をする。

「年の数に一つ足すから、吉羅さんは34粒ですね」

 改めて数え直し、確認をするとうんうんと頷く。
 そして皿を持って立ち上がり、吉羅の元へと歩み寄るとデスクに皿を置く。

「はい、どうぞ」

 吉羅は行事に関心がない。
 しかし、この程度の行為ならば反論などをするよりも黙って従ったほうが早いと判じ、眉間にしわを少し寄せただけでそれを受け入れた。

 香穂子は吉羅の眉間の浅い谷間など気にかけず、来客用のソファーへと戻った。
 ソファーに腰掛けると、もう一枚の皿に豆をばらまく。

 おそらく香穂子の分であろうが、女子高生の年齢を考えると皿に落ちた豆の数がやたら多い。
 なんとはなしに香穂子の挙動を見守った吉羅は、香穂子の指先の動きで豆を数えるが、その動きは20を越えても止まる気配はない。

 ようやく動きを止めた香穂子が取り分けた豆は、香穂子の年齢の倍を数えていた。
 自らの分を数え終え、吉羅の眼差しに気づいたのか、香穂子はかちあった視線をそろそろと外す。
 顔を下に向けながら吉羅の様子を伺い、再び視線が合うと勢いよくそらした。
 無言で問う吉羅に応え、壁を見つめたまま口を開く。

「……豆、食べないんですか?」
「君こそ、食べないのかね? 年齢よりも大分多いようだが」

 ぐっ、と言葉に詰まった香穂子は顔を正面に戻し、皿に散らばる豆を見つめた。
 そろりと伸ばした指先で豆を転がす。

「……吉羅さん、前に、付き合うとしたら、私が吉羅さんよりも年上になったら、って言ったでしょう?」

 香穂子は豆を転がせるのを止めた指で小さな粒を摘んで口に運び、かみ砕く。

「だから、です」

 豆をいくら多く食べたところで、実際に年上になどなれるわけもないが、気分の問題だ、と言い切った香穂子はその後無言で全ての豆を胃の中におさめた。

 立ち上がってドアへと向かい、ノブに手をかけた状態で上半身だけ振り返る。

「ほかの手段にもチャレンジ中ですから、覚悟しててくださいね!」

 「著名なヴァイオリニストになる」。
 そちらの条件は達成してみせる、とばかりに瞳を煌めかせて強気で言い放った香穂子は、ノブを勢いよく回して退室した。

 一人部屋に残された吉羅は、苦くも楽しげともとれる笑みを浮かべ、目の前の豆に手を伸ばした。
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