微妙にシリアスっぽいタイトルですが、どちらかと言うとギャグ寄りです。
登場人物は望美のみ。
登場人物は望美のみ。
現代に移動した荼吉尼天を倒し、八葉と白龍、朔を有川家に預けて自宅に戻ってきた望美は、自分の部屋に入るなりベッドに倒れ込んだ。
ベッドは、ぼすっと鈍い音を立てて望美の身を受け止める。
「ふかふかのお布団……」
布団にくるまり、ごろごろとだらし無く寝転んだ望美は、そのままうとうとと落ちかけた瞼を勢いよく開き、上半身をがばりと起こした。
「久しぶりのベッドを堪能してる場合じゃなかった……。明日も学校あるんだよね」
壁にかけてあるカレンダーを見、望美は溜息をつく。
「明日はなんの授業だっけ」
ベッドから下り、机の元へ行くと時間割を見る。
そこに並んでいたのは、数学や古文、日本史に化学、リーディングや体育と現代文と言った懐かしい教科名だった。
「一限目は数学だね」
さっさと準備をしてしまおうと、望美はまず数学の教科書を手に取った。
次いでノートを手にすると、ふと動きを止める。
「……どこまでやったんだっけ?」
なにせ、異世界に飛ばされていたのだ。
授業内容など、おぼろげにしか覚えていない。
ノートをぺらりと捲り、書き込みと空白の境のページを見つけると、望美はそのページにしっかりと目を通した。
「……覚えてない……」
数字の羅列は公式を使って自らが以前解いた問題のはずだ。
しかし、どんな公式を使ったのかさっぱり思い出せない。
慌てて教科書の該当すると思われるページを開いてみるが、記憶は蘇ってこない。
「考えてみたら、私って将臣くんよりよっぽど長くあっちの世界にいたんだよね。何年……ううん、何十……もしかしたら百年単位…………」
そこまで考えて望美はぶるりと身を震わせた。
最初――炎に囲まれた京邸から、一人だけ白龍の逆鱗で現代へと戻ってきた時から、望美はその力を使って様々な運命を辿った。
八葉を、仲間を、そして源氏や平家、熊野や京の人々を一人でも多く救う為に。
救う、などとは傲慢だとわかっていたが、それでも皆を助けたかったのだ。
時に恋をし、笑い、歎き、救えなかった命に絶望し――それを繰り返して、ようやく掴んだ『和議』が成された運命。
それが今、望美がいる場所へと続いている。
かつて繰り返した運命は、望美はもうどれだけの数だったのか覚えていない。
逆鱗を使い始めた頃は数えていたものの、ままならぬ運命を変えようと足掻くうちに、数など数えられなくなっていた。
いくつもの春を、夏を、秋を、冬を越した。
「――私、精神年齢いくつ……」
考えかけて、望美は勢いよく頭を振った。
「私は17歳、17歳……」
既に覚えていないが、覚えている範囲だけで月日を数えて、もしも3桁に達していたらさすがにショックだ。
幸い体の年齢は17歳。
戦の傷が残っているから、既に18歳になっている可能性もあるが、それでもハイティーンに変わりはない。
数学はちょっと忘れているが、現代文明の機器の使い方は覚えているし、クラスメイトの顔や名前だってすぐに出てくる。
「問題は勉強面。数学と……古文は平家物語だし、日本史は鎌倉幕府だから大丈夫そうかな。化学とリーディングはあの世界では使わなかった知識だから不安だな。体育は着替えに気をつければ大丈夫で、現代文もまあ……」
とりあえずは翌日の教科を確認し、ざっと検討をつける。
教科書やノートを二つの山に分け、望美は片方の山をぎんと睨んだ。
気分はテスト前夜。
「明日までになんとか思い出さなきゃ!」
意気込む望美は、まるで戦に挑むかのような覚悟を持って勉強に取り掛かった。
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更新履歴ブログ「冴雫」。たまに小話か萌え語りカテゴリでSSS投下。
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