ヒノ望は「小吉」でした。
迷宮の謎を解き、無事に迎えることが出来た新年。
大晦日の夜に皆で集まって騒いでいたからか、元旦の有川家は静かなものだった。
早朝に目が覚めてしまった望美は、身支度を整えて出た家の外で、ヒノエに遭遇した。
「おはよう、姫君」
「ヒノエくん。おはよう! 昨夜も言ったけど、あけましておめでとう」
「ああ、あけましておめでとう。今日は早起きだね」
「目が覚めちゃって。気持ちが高ぶってるのかな。私は散歩に行こうと思ってたんだ。ヒノエくんはどうしたの?」
「俺も散歩だよ。お供させてくれるかい?」
「もちろん!」
元日の朝の空気は、普段よりもどこか清浄さを感じる。
早朝ということもあり、声を潜めて言葉を交わした二人は、行き先も決めぬままに歩きだした。
辿り着いたのは、海岸の波打際だった。
周りには初日の出を見に来たのであろうカップルがいる。
望美とヒノエが足を止めると、ちょうどタイミングがよかったのか、日が上ってきた。
海面を照らす陽光を、望美は眼前に手を翳しながらも、嬉しそうに見ていた。
その後家に戻った二人は、雑煮とおせちを食べ終えると、約束をしたわけでもないのに再び二人揃って外出し、鎌倉のあちこちを巡った。
大した会話をするでないまま日が傾く頃になり、二人は最後にと鎌倉の街を見下ろす高台へと登った。
日の出と似た色に照らされた街は、温かみを感じる。
朝と同じく、どこか澄んだ空気を通して見る街は、建物でごちゃごちゃしているはずなのに美しいと感じた。
「――ここが、お前の世界なんだね」
それを改めて実感し、ヒノエは思わず当たり前の事柄を口から零した。
「うん。ここが、私の世界。ヒノエくんが熊野を大切に思うように、私もこの街が、この世界が大切だよ」
胸を張って言う望美を、ヒノエは眩しそうに見る。
「お前は――」
何かを言いかけたヒノエは、すぐに口を閉ざす。
一瞬の沈黙の後、いつものように明るい声を上げた。
「さて、そろそろ帰ろうか。朝から歩きっぱなしだからね」
「そうだね」
望美は少々不思議そうにしながらもヒノエに調子を合わせ、笑顔で相槌を打った。
踵を返して先に歩き始めた望美の背を見つめ、ヒノエは小さな呟きを落とす。
「――それでも、俺はお前のことを諦めるなんてできないんだ」
決意を秘めたその言葉を望美が耳にするのは、それから数日後――ヒノエの覚悟の一端を「白龍の逆鱗」という形にして見せられた時のこととなる。
初景色(はつげしき)…元旦の瑞気の満ちた風景をいう。初山河。
後書
珍しくヒノ望です。
お正月SSS、吉日・金日・銀望・将望で書こうというのはあっさり決まったのですが、もう1人をどうするか迷ってしまって。
twitterで、「おやすみ」とつぶやいて、一番最初に反応したbotで書くという運任せで決めました。
本当は最初に反応したのは遙か4の遠夜だったのですが、彼はSSSを書くほどキャラを掴みきれていないので、二番目に反応したヒノエ君で。
ヒノエ君、ヒノエ君…と唱えながらページを繰った季寄せで、ふとシチュが思い浮かんだのがこの「初景色」でした。
愛蔵版での幻影とのイベントに影響受けまくりですが。
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