将望は「凶」でした。
迷宮に巣くっていた荼吉尼天を倒して一年。
昨年は賑やかだった年末年始も、今年は静かなものだった。
新年のピンと張った空気の中、将臣と望美は鶴岡八幡宮へと初詣に来ていた。
望美は譲も誘ったのだが、「友人と約束しているから」と断られてしまった。
参拝を終えると、望美はみくじを探して頭を巡らせた。
目当ての場所はすぐに見つかり、将臣の腕を引いて列に並ぶ。
「わざわざ並ぶのか? みくじの自販機あるんだし、そっちでもいいんじゃねぇ?」
「えー。せっかくなら、自分の手で引きたいじゃない。将臣くんは引かない……よね、いつも」
「みくじ引いたところでどうなるもんでもないしな。まぁ、今年はせっかく並んでるんだし引いてみるか」
会話を交わす間に列は進み、まずは望美が角柱を手に取る。
念入りに振って出てきた番号を口にすると、みくじを渡される。
見るより先に場を離れようと隣に並んだ将臣を見ると、彼も同じくみくじを受け取っていた。
二人揃って売り場を離れ、人通りの少ない端に寄る。
そこでようやくみくじを見ると、望美の目に映ったのは「凶」の文字。
「凶!?」
まさか初詣のみくじで凶が出るとは思わず、望美は声を上げてしまう。
すると、将臣が望美のみくじを覗き込んだ。
「マジか。初詣でも凶って出るんだな」
とどめをさされ、がっくりと肩を落とした望美は、気を取り直して将臣に尋ねる。
「将臣くんは?」
「俺は大吉」
言葉通り、「大吉」と書かれたみくじをぴらぴらと振ってみせる。
「将臣くん、運いいもんね」
望美ははあ、とため息をつきながら「凶」の文字を恨みがましく見つめる。
細かく書かれた内容にも目をやるが、凶なのだからあまりよいことは書いていない。
「今年受験なのに……」
「みくじで合否が決まったりしないって。ほら、結ぶんだろ?」
未練がましく見つめる紙を取り上げられ、望美は目を瞬いた。
一方将臣は、取り上げたみくじと自分のみくじ、二つを重ねて折りたたみ始める。
細長くなったそれをみくじ掛の空いた部分に結び付け、将臣は望美の頭をぽんと叩いた。
「これで少しは大吉の効果がお前にも行くんじゃねぇか?」
「ありがとう! でも、いいの?」
「いいんだよ。みくじだってお前に付き合って引いたようなもんだし」
柔らかく目を細めて見つめられ、望美の鼓動が高鳴る。
「……ありがとう。お礼に、何かおごるよ。あ、でも、あんまり高いのは駄目だからね」
「気にしなくていいって。俺がやりたくてやったんだからな。ま、おごってくれるってんなら乗っとくか。店見に行こうぜ」
人が多いから、と伸ばされた手に、望美は自然と自らの手を重ねた。
伝わるぬくもりをもう手放せない、と無意識で思って力を込めた指先をしっかりと包む将臣の掌は、その眼差しと同じく温かかった。
初詣(はつもうで)…元日の朝早く鎮守の社、あるいは恵方に当る社寺に詣でること。信州では初庭と言って、元朝早く産砂神に詣でる。伊勢の初詣をする人もある。初参・初社・初祓・初神籤。
後書
SSSをどの結果に当てはめるかはあみだくじで決めたのですが、この将望は例外でした。
と、いうか…。
「凶」はさすがに何かつけたほうがいいかな~。→じゃあ、「凶」を引いた主人公と誰かの話にしよう→プラス方向の話にしたいから、大吉のおみくじと一緒に結ぶって話にしようかな→このシチュは将望がいいかな
という思考によるもので、これを書いたらほかの結果にもSSSをつけたくなり、これだけ最初から凶固定、ほかのものはおみくじ結果は関係ないのであみだくじで決める、となりました。
鶴岡八幡宮、正月をちょっと過ぎた頃に行ったことはあるのですが、混雑している正月期間には行ったことがないので、地名出しているわりに適当です。
でも、大きなみくじ自販機はありますよね。
やってみたけど、なんかこう、複雑な心境になりました。
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