大地、誕生日おめでとう!
と、いうわけで、急いで書いたSSです。
まだくっついていない設定。
一発書きですが、細かいところは突っ込まない!という方は追記からどうぞ。
と、いうわけで、急いで書いたSSです。
まだくっついていない設定。
一発書きですが、細かいところは突っ込まない!という方は追記からどうぞ。
大地は机上に開いていた問題集からふと目を上げ、壁時計を見遣った。
「5時か……」
昼食を食べてから、間にほんの少しの休憩を挟んだ程度で机に向かい続けていた大地の身体は、凝り固まっていた。
首をほぐすように左右に回しながら、背伸びをする。
そうして椅子から立ち上がった大地の目に、カレンダーが飛び込んできた。
今日は12月29日。
大地の誕生日だ。
特にしるしもつけていないその日付が目に留まったのは、無意識のうちに気分が高揚しているからだろうか。
0時になると同時に、メールの着信を知らせた携帯電話。
一人にしか設定していないそのメロディに、大地はメールを読む前から顔を綻ばせた。
「誕生日おめでとうございます」と題されたそのメールは、予想に違わぬ内容だった。
大地の誕生日を言祝ぎ、深夜のメール送信の詫び、そして受験勉強への応援が綴られていた。
カレンダーから目を離した大地は、携帯電話を手に取った。
受信BOXを開くと、かなでからのメールを表示する。
既に礼を述べる返事はしたが、たわいないメールを送ろうか迷って――電源ボタンを押して、携帯電話を閉じる。
その衝撃で僅かに揺れたのは、シンプルな革のストラップ。
かなでに贈られたものだ。
先日、夏のコンクールに参加したアンサンブルメンバーで小さなクリスマスパーティーがあった。
菩提樹寮で行われたパーティーには、何故か写真部の支倉までいた。
食卓は、天音学園のメンバーである七海が作ったという点心や、至誠館の火積から送られてきたという肉で作った料理の数々、神南からはシャンメリーなどで、賑やかなものとなっていた。
その場で大地の誕生祝いも兼ねた、というか、そもそものパーティーがクリスマスと大地誕生日の合同だったのは、受験生の身としてはありがたいようでもあり、一まとめにされがちなことには諦めもあり、と少々複雑な心境でもあった。
しかし、祝われれば当然嬉しい。
皆に誕生日プレゼントも貰い、楽しい時間を過ごしたのだ。
そこでかなでに貰ったのが、このストラップである。
浮かべていた笑みを深めた大地は、携帯電話を一旦机の上に置くとコートを手にし、外出する準備を始めた。
愛犬のモモを連れ家を出ると、外はすっかり暗くなっていた。
冷えた空気が肌を刺し、大地は思わず首を竦めた。
拍子に深く顔を埋めたマフラーも、かなでからの贈り物だ。
こちらは誕生日プレゼントというわけではなく、コンビニのハラショーで売っていたからとアンサンブルメンバー、そして天音学園のアンサンブルメンバーに贈っていた。
まとめて購入したようではあるが、それぞれの好みに合ったものとなっているのは、好みを熟知したかなでがすごいのか、それをすべて取り揃えているハラショーがすごいのか、どちらを褒めたたえるべきなのかが迷われる。
つらつらとそんなことや受験のことを考えても、最終的に行き着くのは一人の少女のことで。
はあ、と吐いた息が白く凍る。
それに反応したわけではないだろうが、突然モモが強くリードを引いた。
どうしたのかとモモを見遣れば、道の先を見て興奮しているようだった。
視線の先にあるのは公園。
定番の散歩コースであるそこに、モモに急かされるようにして入ると、小さな人影があった。
「――――ひなちゃん!?」
暗い中に浮かぶ、見慣れたシルエットと髪色。
確信を持って呼ばれた名に、こちらにベンチに座った後ろ姿を向けていた少女は振り向いた。
大地を認めると、目を丸くする。
「大地先輩」
どこか安堵したような笑みを見せる、その頬は寒さで赤くなっている。
「どうしたんだい? こんなに寒い中、一人で公園にいるなんて」
「えっと、……っ、くしゅん!」
問い掛けに答えようと口を開いたかなでからは、言葉ではなくくしゃみが飛び出した。
そんなに冷えているのかと、思わず取った手は、ぬくもりが感じられなかった。
「こんなに冷えて……。寒いだろう? ちょっとだけ、モモを見ていてくれるかい?」
このまま話を続けるにはいたたまれなくて、大地はモモをかなでに預けると近くにある飲料の自動販売機へと駆けた。
ポケットに突っ込んでいた財布から小銭を取り出すとコイン投入口に入れ、光るボタンを見つめる。
二つのボタンの間で逡巡するが、すぐに片方のボタンを押した。
出てきた缶を手にすると再び小銭を投入し、今度は迷いなくボタンを押す。
財布をしまい、二つの缶を持った大地はかなでとモモの元へ戻った。
「はい。ココアでよかったかな? 温まるよ。俺のおごり」
最初に買った飲料をかなでの前に差し出し、モモのリードを受け取る。
かなではそろっと指を伸ばし、缶の熱さに一旦指先を引っ込めてから両の掌で受け取った。
「あっ、ありがとうございます」
しかし、かなでは困ったようにプルタブを見つめ、開けようとはしない。
その理由に思い至って、大地はココアの缶を優しく取り上げた。
「そんなに冷えてたら開けづらいよね。はい、どうぞ」
指先がかじかんでいるかなでの缶を開けると、大地はかなでの隣に腰掛けた。
そして、自分はブラックコーヒーのプルタブを開ける。
一口飲むと、吐く息の白さが増した。
小さな霧が宙に溶けると、かなでが缶に添えていた両手に力を込め、大地を見上げた。
「あの、大地先輩」
「なんだい?」
大地は少しだけ首を傾げ、かなでは深呼吸をするように息を吸った。
「お誕生日、おめでとうございます!」
真冬の夜に、まるで真夏の太陽のような笑顔で言われた言葉。
それは、大地の誕生日を祝うものだった。
不意を突かれた大地は、顔を僅かに赤らめる。
「……ありがとう、ひなちゃん。メールも嬉しかったけど、直接言ってもらうともっと嬉しいよ。……もしかして、それを言う為にここで?」
ヴァイオリンを持っている訳でもなく、誰かと待ち合わせをしている様子もない。
だとしたら……と希望を込めて問い掛けてみると、かなでは頷いて軽く俯いた。
「はい。会えるかはわかりませんでしたけど……。やっぱり、直接会って言いたくて」
「本当に嬉しいよ。ありがとう。……俺を待っていて、身体を冷やしてしまっただろう? 寮まで送るよ」
飲み終わった缶を振りながら立つと、かなでも慌てて立ち上がる。
「いえ、一人で大丈夫ですから。大変な時期なのに、お時間をとらせてしまってすみません」
「一人で帰すなんてできないよ。それに、ほら」
視線を下に向けると、モモがかなでに擦り寄っている。
「モモも、まだ君と一緒にいたそうだ。散歩の途中だったからね。コースがちょっと変更になるだけだよ」
大地の言い分に納得したのか、かなでは躊躇いながらも申し出を受けた。
二人と一匹で歩き出し、自販機の側を通ると、二人は手にしていた空の缶を捨てる。
大地は空いた片手をかなでに向かって差し出した。
「少しは温まるだろう?」
おずおずと重ねられた掌をしっかりと包み、大地は隣にいる少女を盗み見た。
赤く染まった耳朶は、寒さのせいだけではないと自惚れてもいいのだろうか。
寒さが緩む頃になったら、自分の想いを告げてみよう。
そう改めて決心をした大地の歩みは、心なしか弾んでいた。
後書
吉羅誕に集中していたので、大地誕は無理かな~と思っていたんですが。
ふと、二人して温かい飲み物を飲んでいるシチュエーションが浮かびまして!
その光景にちょっと萌えたので、勢いで書いてみました。
誕生日おめでとう、大地!
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更新履歴ブログ「冴雫」。たまに小話か萌え語りカテゴリでSSS投下。
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