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冴雫
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前に書いた「三年前の約束(金日/)」の続き。
…中編です。
後編部分が書きたかったのに、何故か前・中と引っ張ってしまう…。

金やん一人称。






 音楽準備室の扉を開けると、日野がいた。

「なんだ日野、来てたのか」
「お邪魔してます」

 こちらに笑顔を向ける日野は、卒業してからも学院にちょこちょこと顔を出す。
 王崎や火原といった前例はあるが、彼らはオケ部OBという立派な理由があり、特に部活に所属していたわけではない卒業生がこうも頻繁に高校を訪れるというのは珍しい。
 しかし、それが二年も続けば、既に見慣れた光景となるもので、制服姿の日野と同じくらい、私服姿の日野は学院に馴染んでいた。

 さて、そんな彼女が準備室にいるとなると、用件は自分にあるのだろう。
 何か約束でもしていたか、と記憶を探るが、いまいち思い浮かばない。
 早々に諦めて、直接尋ねることにした。

「どうしたんだ?」

 聞くと、日野は目の前にあったカレンダーの一点をびしりと指し示した。
 今日から丁度一週間後。

「来週?」

 見覚えのある日付。
 しかし、その日に約束をした覚えはない。

「なんか約束してたか?」
「私の誕生日です」

 それは知っている。
 約束をしたわけでもないのに、自分の予定を入れられずにいたのだから。
 偶然、会えたらいいなと。
 だから、当の本人とすら約束は交わしていない。

「……プレゼントの要求か?」

 思い至ったのは、それくらいで。

「違っ……いえ、そうですね」

 首を横に振った日野はしかし、動きを止めて考え込むと、俺の言葉を肯定した。

「先生、三年前の約束覚えてますか?」
「三年前?」

 三年前と言えば、日野が高校二年目の時。
 その頃にした『約束』と言われて、頭中のカレンダーの備考欄に書き込んだ文字が浮かんできた。
 日野はあと一週間で、その約束を果たすことが可能となる年齢を迎える。

「……もしかして、『一緒に飲みに行く』ってやつか?」
「覚えててくれたんですね!」

 日野は前のめりになり、瞳をきらきらと輝かせた。
 感情のままの行動。「若いなぁ」などと年寄りじみたことを考えながら、可愛いとも感じてしまう。
 しかし、疑問が湧き上がる。

「誕生日当日にか? 友達が祝ってくれるんじゃないのか?」

 二十歳になったばかりの若人ならば、友達と誕生パーティーでもして、その際に乾杯でもするのではないか。
 なにせ、「大人」の第一歩だ。
 約束したからと言って、恩師と盃を交わす必要などないだろう。

「誕生日の近い友達がいるから、一緒にお祝いするんです。その子のほうが後だから、お酒はその時です」
「それにしたって……」
「……先生、その日に予定あるんですか?」

 躊躇いを見せれば、日野は先程まで輝いていた瞳を不安そうに揺らす。

「……ない」
「じゃあ、大丈夫ですね! お店は約束したところで、待ち合わせ場所と時間はどうしましょうか?」

 一転、生き生きと予定を詰め出した日野にこれ以上口を挟むことなどできなかった。
 根底に、共に酒を飲む初めての相手が俺である、という嬉しさがあるのだから、否定するだなんて、端から無理なことだったのだけれど。
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