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冴雫
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笑言十題「バタフライ並に激しく泳いでいる目」です。
お題ラスト!

以下は注意事項。
・主な登場は有川兄弟・銀髪兄弟
・展開グダグダ
・キャラ数名にあだ名
・また和議が絡んでます

等々、大丈夫そうな方は追加からどうぞ。







 熊野川の氾濫が治まり、熊野別当の元へ向かおうという日の朝。 準備を終え、宿を発つ前に、皆が一所に集まっていた。
 いざ、と腰を上げた望美の荷物から、何かが滑り落ちた。

 ごとりと音をたてたのは、折り畳まれた銀色の板。
 それを、望美は慌てて拾いあげると、ぱかりと開いた。
 カタカタと下方の板に並んだ小さな四角い板を打ち、濃い灰色の部分に文字が現れるのを確認する。

「よかった、壊れてない」

 ほっと胸を撫で下ろした望美は、はっと周囲を見回した。
 将臣、九郎、ヒノエ、弁慶、景時、譲、敦盛、リズヴァーン、白龍、朔……皆の視線が、望美の手元に向かっている。
 固まっていた有川兄弟が硬直から解け、真っ先に口を開いた。

「お前、それ電子辞書じゃねぇか! なんで、今持ってるんだよ!」
「先輩、どうしたんですか、それ?」

 慌てた望美は、急いで電子辞書を隠そうとし、包みをひっくり返してしまった。
 今度は、バサと音をたてて文庫本が転がり出てくる。
 それを拾った将臣は、再び声を上げた。

「『平家物語』!? 辞書もだけど、お前なんでこんなもん持ってるんだよ?」

 話が見えず、戸惑う人々に譲が、転がっていたもう一冊の本を拾いながら説明をする。

「どちらも、俺たちの世界のものなんです。電子辞書は、いろいろな言葉の意味を調べることができる機械。あの中に、たくさんの書物の情報が入っているんです」
「景時の作るからくりのようなものか? では、『平家物語』とはなんだ?」
「『平家物語』は、俺たちの世界での源平合戦を物語として書き記したものです」

 譲の答えに、皆が納得したように頷く。

「それで、望美。なんで現代のものを持ってるんだ? こっちに飛ばされる前……渡り廊下を歩いてた時は、そんなもの持ってなかったよな?」

 将臣が問い詰めると、望美は視線を逸らす。
 そのまま、視点を四方八方に散らしながら口を開いた。

「やだなー、将臣くん。渡り廊下で持ってたから、今持ってるんじゃない」

 笑ってごまかそうとするも、引き攣った笑みと棒読みの台詞では説得力がない。
 加えて、譲が冷静な指摘をする。

「先輩、宇治川ではこんなもの持ってませんでしたよね?」
「だいたい、電子辞書はともかく、お前が『平家物語』なんて持ってるわけないだろ。古典も日本史も苦手だったじゃねぇか」

 望美が言葉に詰まったところで、放置されていた八葉たちがようやく声を上げた。

「望美ちゃん、その『でんしじしょ』っていうの? 見せてもらってもいいかな」
「何故、『平家物語』なんだ! 源氏が題材の話はないのか!」

 二人の言葉に、望美は逃げ口を見つけたとばかりに食いついた。
 まずは景時に詰め寄り、電子辞書をポンと渡す。

「はい、どうぞ。繊細な機械ですから、丁寧に扱ってくださいね。使い方は譲くんに聞いてください。譲くん、お願いね」

 譲を景時に押し付けると、今度は九郎のほうを向いた。

「『源氏物語』はもうあるじゃないですか。紫式部が書いた……。ね、将臣くん! 将臣くんのほうが古典の成績良かったから、説明よろしく!」

 肝心の「源氏物語」の説明の部分は濁し、今度は将臣を九郎に押し付けようと企てる。

「おい、望美!」

 望美は伸ばされた将臣の腕をするりとかわし、濡れ縁に逃れる。
 そのまま何処かへと去ろうとしていたが、踵を返すと柱を盾にし、顔だけ室内に突き入れた。

「あ、将臣くん。ちゃんと説明してくれたら、その本、将臣くんにあげるよ。私にはもう必要ないから」

 本をあげる、という言葉に、望美を追おうとしていた将臣の動きに躊躇いが生まれる。
 還内府として、現代で得た知識を活用してでも平家を救おうとしている将臣。
 彼にとって、虚構が混じっているとは言え源平の戦いを描いた『平家物語』は、重要な手札となりうる。

 将臣の、戸惑いの混ざった眼差しを望美は正面から受け止めた。
 萌黄色の瞳は悪戯を思い付いた子供のように輝き、桜色の唇は弧を描いている。

「そのうち、将臣くんにも必要なくなると思うけどね。じゃあ、私は先に町に行ってますね」

 言い置くと、望美は今度こそ背を向け、階から夏の熊野へと飛び出して行った。





「ね? 必要なくなったでしょ?」

 秋の京で再会した望美は開口一番、将臣に向かって言った。
 その顔には、将臣に本が必要なくなる、と予言した時と同じ笑みが浮かんでいる。

 将臣は頭を掻きながら、反対の手で本を差し出した。

「まあな。お前から『源氏の神子』として文がきた時は驚いたぜ。だが、それ以上に本の書き込みに驚いた」
「書き込み?」

 将臣から思いもよらない言葉をかけられ、望美は首を傾げた。
 将臣は一つ頷くと、未だ手の中にある本を開き、視線を落とす。
 ついでに、溜め息も落とされた。

「ああ。何故か重衡の名前の横には『=銀』とか書いてあったろ。それだけならまだしも、清盛には『蝶々』、忠度には『いぶし銀』、経正には『琵琶の人』『敦盛さんのお兄さん』、惟盛には『天パー』、知盛には『ちもり』だの『チモ』だの『戦闘バカ』だの……なんだこれ、あだ名か? もっとマシなあだ名はないのか」

 呆れ返る将臣に、望美は頬を膨らませて言い返す。

「だって、平家の人って『○盛』って名前ばっかりで覚えづらいんだもん。それに、『とももり』って言いづらくない? これでもマトモなほうのあだ名ばっかりだよ」
「これでまともなのか?」

 望美の言い分に、将臣は前髪を書き上げ、呆れたように問い掛けを発した。
 将臣の心境を無視して、望美は力強く頷く。

「うん。チモとか、本当は『え……」
「言わなくていい」

 怨霊を浄化するとして崇められている神子という乙女にはあまり口に出して欲しくない単語が出かけたような気がして、将臣は慌てて望美の口を塞いだ。
 話題を逸らすように、気にかかった別のことを尋ねる。

「お前、知盛のこと『チモ』って呼んでるのか?」
「さすがに、公の場ではちゃんと知盛って呼ぶよ。戦いの時に『チモ!!』なんて呼んだら、一気に緊張感なくなっちゃうでしょ?」
 思わずその光景を想像してしまった将臣の気力は、確かに削がれた。
 戦の最中という、これ以上ないほどシリアスなシーンが、一気にコントのようになってしまう気がする。

 こめかみが痛みを訴えてきて、将臣は頭を抱えた。
 目の前の少女を見ていると、うっかり戦闘中に妙なあだ名で呼びかねないという気がしてくる。
 だが、あることを思いつくと、痛みは和らいだ。

「そもそも、和議結ぶんだから、戦う必要はなくなるけどな」
「そうだね。……平家とは」

 同意をした望美の言葉に含みを感じ、将臣は剣呑な光を宿した瞳を細くした。
 潜めた声は、いつもよりも低く響く。

「なにかあるのか?」

 第三者の介入か、もしくは……と思考を巡らせた将臣の考えを肯定するように、望美は顔を縦に動かした。

「女狐と戦闘になる可能性があるんだよね」

 『女狐』という単語に、将臣は一人の女性を思い浮かべる。
 北条政子。
 源頼朝の妻だ。
 厄介な相手だと顔をしかめた将臣に、望美はにいっと唇の端を上げた笑みを見せる。

「相手は土属性だから。頼りにしてるよ、将臣くん」





 またしても望美の言葉通り、政子と――いや、彼女に取り憑いていた荼吉尼天と戦い、そして勝利を修めた将臣は、新たな頭痛の種を抱えていた。

 問題はまだ山積みだとは言え、戦がなくなった。これはいい。
 望美が、ひょいひょい平家の屋敷に遊びにくる。これもまだいい。
 遊びに来た望美が、経正や二位の尼などと交流を深めている。これは歓迎すべきことだ。

 頭痛の原因は、知盛と重衡。
 和議の席での戦闘で、望美は先陣を切りながら、見事に八葉や周囲の人々に指示を出し、荼吉尼天を退けた。
 問題は、「周囲の人々」に知盛と重衡が含まれていたこと、そして望美がうっかり口を滑らしてしまったことだ。



 場をなんとか収めた後。
 平家の元へと向かってきた望美は、知盛と重衡に向かってこう言った。

「ありがとう、チモリ、銀!……あ」

 知盛はぴくりと眉を動かし、重衡は『銀』という呼び名に過剰とも思える反応をしめした。

「それは……俺のことを呼んでいるつもりか……?」
「十六夜の君……!?」

 知盛は呼び名など実は気にしていないだろうに、手合わせの口実に。
 重衡は「やはり、あなたとの出会いは運命だったのですね」などと、下手をするとどこかから電波を受信したのではないかと思ってしまうことを口にし、次に会う約束を柔らかい口調で押し付けていた。



 と、いうことがあり、約束を果たすと次の約束……と言った具合に、二人と望美の約束が途切れる気配がないのだ。
 今日も今日とて、屋敷には剣戟の音が響き、重衡に甘い言葉をささやかれて頬を赤く染める望美の姿が視界に映る。

 恥ずかしそうに微笑む望美の手には、いつものように銀色の板が握られている。
 時折、難解なことを言い出す知盛や、雅な言葉遣いの重衡の傍にいると、辞書が必須アイテムになる、と望美が以前ぼやいていたのを思い出した将臣は、ぼりぼりと頭を掻いた。

「あいつ、現代に戻る気あんのか?」

 視線の先では、重衡と望美の会話に知盛が加わっている。
 兄弟の間に散る火花に、三人の兄がわりは、呆れながらも笑みを浮かべた。

 こんな光景も、平和の証なのだから。
 将臣はぐんと背伸びをすると、三人の間に入るべく、足を踏み出す。
 濡れ縁に出たことで視界に入った太陽は、まばゆく輝いていた。




後書

これで、笑言十題消化!
ラストがこれで申し訳ありません。
グダグダなのは自覚ありなんですが、手直ししたらほぼ全部書き直しになりそうだったので、眠気に任せてアップしちゃいます。

でも、望美が現代のものを持って行ってしまうとか、それがばれるとか、和議の席でダキニーやっつけるとか、チモと呼ぶとか、やってみたかったことをいろいろやれたので楽しかったです。

それにしても、私がギャグ(もどき)を書くと、将臣君ばっかり…。
書きやすいんですよね。
ギャグばっかりなのもあれなので、そのうち将臣×望美も書いてみたいな~。
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