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冴雫
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初めてのコルダ3作品です。
副部長ズとかなでの話。



早速注意書き。
・ファイナル期間
・ゲーム中ネタバレあり
・恋愛イベントフラグ折りあり



大丈夫そうな方は追記からどうぞ。











 まだ強さを纏っていない、朝の日差しが照らす菩提樹寮のラウンジ。
 そこで、土岐は椅子に腰掛けている大地を見つけた。

 菩提樹寮に滞在している土岐がラウンジに現れるのは自然であるが、自宅が山手にある大地は用がない限りこのホールに姿を見せることはない。
 土岐は、探りを入れるように彼に声をかけた。

「あれ、榊くんが寮にいるなんて、珍しいなぁ」
「ちょっと用があってね」

 大地は、読んでいた楽譜から目を離すと、如才ない笑みを浮かべてみせた。
 二人の間に張り詰めようとしていた空気は、軽い足音によって霧散する。

「大地先輩、土岐さん、おはようございます」

 ヴァイオリンケースを手に、ラウンジへと入ってきたのはかなでだった。
 明るい笑顔をみせたかなでに、二人も微笑みながら挨拶を返す。

「おはよう、ひなちゃん」
「ああ、小日向ちゃん。おはよう。俺より先に榊くんの名前呼ぶなんて、妬けるなぁ」

 土岐の軽口に、かなでは淡く頬を染める。

「大地先輩とは待ち合わせしてましたから。お待たせしてしまってすみません」

 前半の言葉は土岐に、後半の後半は大地に向けて発された。
 土岐はふうんと納得したのかしていないのかわからない相槌を打ち、大地は片目を瞑ってみせた。
「いや、そんなに待ってないよ。ひなちゃんになら、もっと待たされてもいいんだけどね」
「なんや、小日向ちゃんと練習やったん? 俺に見せつけるなんて、榊くんも意地が悪いなぁ」
「見せつけるつもりなんてないさ。俺は、土岐がこの時間にラウンジに現れるなんて知らなかったからね」

 それもそうやね、と頷いた土岐を見て、大地は何かを思案するような表情をする。
 目を伏せていたのは一瞬。
 すぐに普段の顔に戻った大地は、立ち上がりながら壁にかけてあるカレンダーを見遣った。

「ああ、そうだ。土岐、今日が誕生日なんだって? おめでとう」
「……礼は言うけど、あんたに祝われるとは思ってなかったわ」

 土岐は、意表を突かれたように目を瞠る。
 しかし、それ以上に驚いている人物がいた。
 かなではあんぐりと口を開け、目を丸くして土岐を見つめていた。

「え、蓬生さんって今日がお誕生日なんですか? おめでとうございます!」
「ありがとう」

 かなでに対しては、土岐も素直に微笑んで祝いの言葉を受け入れた。
 かなでもつられるようにして顔を綻ばせたが、すぐに揺れる瞳で土岐を見つめた。

「あの、私、誕生日だって知らなかったから何も用意してなくて……。何か、欲しいものとかありますか?」
「そうやなぁ……。特に欲しいものとかはないんよ。小日向ちゃんから貰うものなら、なんでも嬉しいけどな」

 土岐がかなでに向けた流し目を遮るように、大地が声を上げた。

「考えてるとこ悪いけど、そろそろ会場に向かったほうがいいんじゃないか?」

 壁に掛かっている時計を、視線で示す。
 かなでが、手を合わせて納得したように頷いた。

「あ、今日は東金さんのソロファイナルですもんね」
「ああ。それに、神南の努力に報いるよう、俺たちがファイナルで優勝することがプレゼントとしては一番じゃないかな」

 星奏オケ部の二人の間で綺麗に話がまとまりかけたところに、今度は土岐が間に入る。

「小日向ちゃんが俺のこと想って演奏した曲で優勝してくれたら、確かに嬉しいなぁ」

 大地と土岐の間に見えぬ火花が散った。
 空気を察したのか、かなでは僅かに怯えながらも二人の間に入った。

「あの、でもやっぱりプレゼントをしたいです」

 お願いをするように二人を見上げたかなでの頭に、大地が手を置く。
 形のよい頭を撫でながら、そうだ、と呟いた。

「じゃあ、こうしないか? 俺との二人練習が終わったら、一緒に土岐へのプレゼントを探そう」
「え、いいんですか?」

 かなでの表情が、ぱあっと華やぐ。

「ああ。俺も土岐には世話になっているからね。せっかくだから、俺とひなちゃんの連名で贈ろうか。それに、男物を選ぶんだったら、男が一緒にいたほうが店に入りやすいし意見も聞きやすいだろう?」
「そうですね。お願いしてもいいですか? 大地先輩」
「もちろん」

 祝われる当人を余所に、かなでと大地の話は進む。

「俺は、榊くんにプレゼントを貰う義理はないんやけどなぁ」

 口を挟んだ土岐に、大地は笑みを向けた。

「人の厚意は素直に受け取るものだろう?」
「厚意、ねぇ……。なんや、裏を感じるなぁ」

 土岐は、大地の真意を探るように視線を投げかける。

「まぁ、他意がないとは言わないけどな。さて、それじゃあひなちゃん、そろそろ行こうか」

 大地は、表情を変えずにそれを受ける。
 テーブルの上に置いてあったヴィオラケースを携え、土岐に背を向けた。

「はい! 土岐さん、東金さんに『応援してます』って伝えておいてください」
「ああ、伝えとくわ。小日向ちゃんも、練習頑張ってな」
「はい」





 二人練習を終えたかなでと大地は、赤レンガ倉庫を訪れていた。
 通路の両脇を眺めながら、土岐へのプレゼントは何がいいかを思案する。

「プレゼントは、普段使いできるものがいいですよね」
「そうだね。たしか、土岐は車を運転すると聞いたな。だったら、キーケースなんかどうだろう」
「あ、いいかもしれませんね」
「じゃあ、早速そこの店を覗いてみようか」

 大地に誘われ入った店では、男性向けの革製品を主に取り扱っているようだった。
 キーケースが並べられているコーナーを見つけると、かなでは脇目を振らずに店の奥に向かう。

 棚では、様々なデザインのキーケースが個性を放っていた。
 その中でも、一際シンプルなデザインのものにかなでの瞳は引き付けられた。
 細身で手触りのいい黒いキーケース。
 すらりとした印象を与えるこのキーケースは、土岐に似合うように思えた。
 大地の意見を聞こうと、かなでは傍らで同じ棚を見ていた彼に話しかける。

「大地先輩、これはどうでしょう?」

「ああ、いいんじゃないかな」

 大地の同意を得て、かなでは嬉しそうに微笑んだ。
 店内をぐるりと見回し、特に目につくものがないのを確かめると、キーケースを手にレジへとつま先を向ける。

 しかし、大地が何かを熱心に見ているのに気づき、足を止めた。
 彼の瞳は、キーケースの横に並んだパスケースを映していた。

「パスケース、ですか?」
「ああ、大会のIDカードを入れておくのにいいかと思って。半年もしたら、日常的に使うようになるだろうし」

 大会は残すところあと一回、決勝のみだが、大学へと進学すれば電車で通学することとなるだろう。
 気に入ったものがあるならば、少し早めに購入しても構わない。
 そう考えた大地は、好みのデザインのパスケースを手に取った。

 しっくりと手に馴染み、使い心地もよさそうに思えた。
 パスケースを棚に戻すと、大地は顎に手をあてた。
 残る問題は一つ。
 カラーをどうするか、だった。

「ひなちゃん、これとこっちだったら、どっちがいいと思う?」

 大地が指し示した二つのパスケースを、かなでは真剣に見つめる。
 大地の顔を時折見上げては、またパスケースへと視線を戻す。
 しばらくすると片方を持ち上げた。

「こっち、でしょうか。先輩のヴィオラみたいな色で、素敵ですね」

 好きな色です、と零したかなでは、はっとしたように言葉を繕う。

「あ、私が好きな色を選んでも仕方ないですよね」
「いや、嬉しいよ。ありがとう、ひなちゃん」

 大地は顔を綻ばせると、かなでの手にしたパスケースとキーケースを受け取った。

「土岐へのプレゼントも一緒に会計してくるよ。ちょっと待っててね」
「はい」





 ソロファイナルが終わり、菩提樹寮へ一人で戻ってきた土岐を迎えたのは、大地とかなでだった。

「あれ、榊くん、まだおったん?」

 片眉を上げた土岐に、大地はラッピングの施された掌サイズの箱を見せる。

「土岐にプレゼントを渡すために待ってたんだよ。ほら」
「せっかくなら、小日向ちゃんから貰いたかったなぁ」

 手を差し出しながら、土岐はかなでに視線を送った。
 いささか荒く掌に置かれたプレゼントを、しっかりと受け取る。

「ありがとうな、小日向ちゃん。榊くんにも礼は言うとくわ」
「どういたしまして。さて、ひなちゃん。今日は歩き回って疲れただろう? 明日の練習に備えて、ゆっくり休むんだよ」
「はい」

 大地が去るのを見送った土岐は、かなでに向き直った。

「小日向ちゃん、プレゼント開けてもええ?」
「はい、もちろん!」

 椅子に腰を下ろし、丁寧にラッピングを解く。
 箱の中には、黒革のキーケースが収まっていた。

「キーケースやな。ありがとう、大事に使うわ」

 その言葉に満面の笑みを浮かべたかなでを見て、土岐は唇の端を上げる。

「今日は、小日向ちゃんに遊園地にでも付き合うてもらおう思っとったのに、俺のために歩き回って疲れたなんて聞いてしもうたら、誘うわけにもいかんなぁ」

 榊くんに牽制されてしもたわ、との続きは土岐の心中のみに響いた。
 空気を震わせた言葉を聞いたかなでは、首を傾げた。

「遊園地ですか? そこまで疲れてるわけじゃないし、付き合いますよ?」

 かなでの返事を聞いた土岐はしかし、緩く首を振った。

「ええよ。代わりに、今度付き合うてな」
「はい」

 約束やで、と冗談まじりに差し出した小指に華奢な小指を絡められ、土岐は微かに目を瞠った。
 それでも振りほどくことはせず、軽く指を曲げる。

 結ばれた小指に、土岐は柔らかく目を細めた。





後書

初めてのコルダ3作品です。
最初は土岐がフラグ折られっぱなしの大かなになる予定だったんですが、土岐もちょっと報われる感じになりました。
あ、大地は最後の恋愛イベント「恋に変わっていた」が起きている設定。
なので、いそいそと土岐を妨害しています。
パスケースのメールは貰っておらず、まだ購入していなかったということで。

それにしても、土岐の口調難しい…!
生まれは東京、育ちは埼玉。関東にしか親戚がいないので、方言はからきし駄目です。
間違いはスルーかツッコミをお願いします。



ラストは、後で書き直したいなぁ。
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