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冴雫
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笑言十題「これは神の思し召しに違いない!」を泰衡→←望美で消化しました。





泰衡さんからの矢印がちょっと微妙なんですが、一応この表記で。





ちょうど今くらいの時期の話になってます。





吉日メイン、遙か3は重望メインなサイトなので、泰衡さんはちょっと違和感があるかもしれませんが、楽しんで書きました。








SSは追記からどうぞ。












「あ、泰衡さん!」

 泰衡は騒々しい程の声に呼び止められた。
 だが、それを無視して足を進める。
 すると、後ろから軽い足音が追いかけてきた。

「泰衡さん、ちょっと待ってください!」

 言葉と共に、ぐいと肩からかけている布を引かれる。
 不意の衝撃によろめいた態勢を立て直しながら、泰衡は声の主に剣呑な瞳を向けた。

「……これは神子殿。何用ですかな?」
「今、色鬼をやってるんです」
「色鬼?」

 泰衡は、なんだそれはと言わんばかりに眉間の皴を深めた。

「あっ、色鬼っていうのは鬼ごっこ……鬼ごっこってわかりますか?」
「鬼ごっこ?」

 リズヴァーンの真似でもするのか、と改めて望美を見下ろすが、いつもと変わった様子はない。
 望美は不躾な視線に気を悪くもせず、解説を始めた。

「鬼ごっこっていうのは、一人が鬼役になって、皆を追いかけるんです。誰かを捕まえたら、鬼役は交代。先に鬼役だった人は逃げて、捕まってしまった人が鬼となって皆を追いかけるんです。それを繰り返す遊びです。あ、屋敷内でやってるので、走るのは禁止にしていますよ」

 説明を聞いても泰衡の眉間の皴は深まるばかり。
 泰衡は、一先ず不満は重い溜め息に載せるに留め、疑問点を問い掛けた。

「それで? 私はそのような遊戯に興じるつもりはないのだが、何故神子殿は私の衣を掴んでおいでなのかな」

 暗に「離せ」と言葉と視線で促すが、望美の掌はしっかと布を掴んでいる。

「今、私達がやってる『色鬼』っていうのは、それにルール……きまりが加わるんです。鬼が指定した色に触っている人は、近くにいても捕まえることができないんです。今指定されている色が『黒』で」
「……あなたが私の衣を掴んでいる理由はわかった。神子殿は随分と時間を持て余しておいでのようだ。だが、私はあなたと違って忙しい。黒ならばほかにもあるだろう。手を離していただけないか」

 泰衡が言い終わると同時に、白龍が姿を現した。

「あ、神子! 見つけたよ」
「鬼が来ちゃったので、もう少しだけ付き合ってください」

 しかし泰衡は係わり合いになるのは御免だとばかりに、肩布を外そうとした。
 自らの肩に手をかけ、頭を僅かに傾けた泰衡の耳に、新たに白龍の言葉が飛び込んでくる。

「神子は黒に触っているから捕まえられないね。では、次の色を言うよ」

 肩布は外さなくて済みそうだ、と泰衡はようやく緩んだ手から布を抜き取って歩きだそうとした。

「……そうだね、紫にしよう」
「紫……。あっ!」

 だが、今度は腕に軽い衝撃が伝わる。
 がし、と泰衡の腕を掴んでいたのはやはり望美。
 彼女は、泰衡の袖口から覗く紫の布をしっかりと掴む為か、何故か泰衡の腕に自らの腕を絡めている。
 内に着ているものでは脱ぐこともできない。
 頭の奥から湧く鈍痛を堪えながら望美を見下ろした泰衡は、彼女が身に纏っている色に気づいた。

「あなたの髪は紫苑。衣装には紫が使われているだろう。それに触れていればいいではないか」
「自分の身につけてるものは駄目なんです」

 泰衡は望美の答えに舌打ちをすると、銀を呼び付けた。

「銀!」
「はい、泰衡様」

 すぐに現れた銀の袴の色は紫。

「神子殿の相手をして差し上げろ」

 これで面倒から逃れられる、と僅かに眉間の皴を緩めた泰衡の隙を突いたように、離れたところから白龍の言葉が響いてきた。

「次は『金』だよ」

 望美が再びがしりと掴んだのは、泰衡の袖の縁。
 黙り込んでしまった泰衡を見て、銀は控えめに声をかけた。

「泰衡様?」
「……銀、お前は金色のものを身につけていないか」

 どうにか望美を押し付けようとするが、銀の身には金色など見当たらない。
 銀は首を傾げながらも、主の問いに答えようと思考を巡らせた。

「申し訳ありません。方天戟は別室に置いておりまして……。すぐに持って参ります」

 些か性急に頷いた泰衡の耳に、再び白龍の言葉が滑り込んできた。

「次は……『橙』にするね」

 それに反応した望美は、泰衡の袖口からは手を離したものの、今度は肩から下がる紐を掴んだ。

「……いや、いい」

 泰衡は銀の行動を止めると、望美に向き直る。

「神子殿、いい加減離れていただこう」

 しかし、望美が手を離す気配はない。
 それどころか、きらきらと瞳を輝かせて泰衡に顔を近づけた。

「だって、ことごとく泰衡さんが身につけてる色が指定されるんですもん。これはもう、泰衡さんにくっついてろって白龍が言ってるんだと思いません?」
「神子殿の頭は随分と御自身に都合よく出来ているようですな」

 泰衡の皮肉も堪えた様子はなく、望美はにっこりと笑った。

「それくらいじゃないと、このまま平泉に残れませんから」

 その場に、沈黙が落ちる。

「……平泉に残る?」

 跳ね上げられた泰衡の片眉を見て、望美は瞬きをした。

「あれ、言ってませんでしたっけ?」
「そのようなことは耳にしておりませんな」

 泰衡は未だ傍に控えており、微塵も驚いた表情を見せない銀に問い掛けを発する。

「銀、お前は知っていたのか?」
「はい」

 すんなりと頷いた銀に、泰衡は非難の目を向けた。

「何故報告しない」
「神子様が御自身で泰衡様にお話になるとおっしゃっていましたので」

 銀はそつのない笑みでそれを受け流す。
 望美が、慌てたように二人の間に体を割り込ませた。

「私が口止めしたんですけど、なかなか言うタイミング……機会がなくて」
「ほう?」

 泰衡が、更なる嫌味の一つでも口にしようとしたところで、もう何度目かもわからない白龍の声が近くから響いてきた。

「今度は『銀』だよ」

 目の端に白龍の姿を捉えた望美は、わたわたと周囲を見渡す。
 視界に入ったのは、絹のような銀糸。

「あ、銀、ちょっと屈んでくれる?」
「はい」

 望美の言葉に従い、腰を落とした銀の髪に、華奢な指が差し入れられる。

「わぁ~、見た通り、さらさらの髪だね。一回触ってみたかったんだ」
「神子様がお望みならば、いつでも……」

 銀の言葉の途中で、望美の手は形のいい頭部から離れた。
 泰衡が、望美の腕を掴んで銀から引き離したのだ。

「泰衡さん?」

 戸惑いの瞳を向ける望美に、泰衡は冷たく言い放つ。

「まだ、話は終わっていない」
「でも、色鬼の最中……」

 離された腕を自身の元へ引き寄せた望美に、大きな影がかかった。
「神子! 捕まえたよ」

 言葉と共に伸びてきたのは白龍の腕。
 望美は、白龍の胸と腕で作られた囲いに捕われた。

「わっ、白龍! あ~あ、捕まっちゃった。じゃあ、次は私が鬼だね」

 白龍に抱きしめられたままの望美の身を、泰衡が引き寄せる。
 白龍の囲いは呆気なく崩れ、望美は泰衡の胸にもたれ掛かるような体勢になった。

「やっ、泰衡さん……?」
「もう、遊びは終わりだ。俺は神子殿と話があるのでな。失礼する」

 望美の体を解放すると、泰衡は後ろも見ずに廂を進む。

「神子……?」

 望美は、不思議そうな顔をしている白龍に手を合わせて謝った。

「白龍、ごめんね。ちょっと話してくるから、戻ってきたらまた遊ぼう?」
「うん、わかった」

 望美は身を翻して、泰衡の後を追う。
 先に行った泰衡は、角を曲がったところにある空き部屋で望美を待ち構えていた。
 望美を見ると、乗馬鞭を手に打ち付けてぴしりと音を鳴らした。

「……平泉に残るとは、どういうことですかな?」
「言葉通りです。元の世界には帰らないで、ここに、平泉に残ります」

 泰衡を見据えた望美の瞳に、迷いはない。
 しかし、泰衡はそれを一笑に付した。

「戯れ事を」
「冗談なんかじゃありません! 将臣君や譲君にも説明したし、秀衡さんや九郎さんにだって納得してもらってます」

 望美は、強い語調で泰衡の言葉を否定した。
 秀衡と九郎の名に、泰衡の瞳が僅かに揺らぐ。

「何を……」
「本気、ですから。悩んで、悩んで、これ以上はないってくらい悩んで決めたんです。簡単には引き下がりませんよ」

 真剣な光を宿した萌黄色の瞳が、漆黒を射貫く。
 春の気配を含んだ風が室内を吹き抜けると、張り詰めた弓の弦のような視線がふと和らぐ。
 顔を庭に向け、艶やかな桜色の唇からぽつりと言葉を零した。


「――ねぇ、泰衡さん。桜が咲いたら、一緒にお花見に行きませんか?」
「そんなことに付き合う義理はない」

 即座に拒否を示した泰衡に、望美は頬を膨らましてみせた。

「あります。桜の名所を教えてくれたでしょう? 束稲山。『もし戦が終わっていたら』って約束してくれたじゃないですか」
「……そのようなことがありましたかな?」

 言いながら、泰衡の脳裏に秋の出来事が過ぎる。
 束稲山の麓で交わした、皮肉から発展した会話。

「ありました!」
「そう、だな……。約束をしたのであれば、それを破るわけにもいくまい」

 不承不承ながら泰衡が頷くと、望美は目を瞠った。
 それを見て、泰衡は不快そうに眉間を狭めた。

「……あなたが言い出したのだろう」

 今にもやはり止めると意見を翻しかねない泰衡の眼前に、望美は右手の小指を差し出した。

「なんの真似だ?」
「指切りです」
「指切り?」

 なんだそれは、と表情で語る泰衡の泰衡の手を取って、望美は無理矢理小指を絡めた。

「お互いの小指を絡ませ合って、約束の証にするんです」
「形に残らないものに証だと?」

 くだらない、とでも吐き捨てそうな泰衡はしかし、僅かに顔を歪めただけだった。
 振り払われることはなかった指を、望美は嬉しそうに見つめる。

「形には残らなくてもいいんです。約束、ですよ」

 絡められた華奢な指の固さに、泰衡は望美の覚悟の一端を見た気がした。
 そこから伝わる熱をどこか心地好く感じながらも、泰衡は頷きだけを返す。

「――ああ」

 素っ気ない応えに、望美はふわりとした優しい笑みを浮かべる。
 その笑顔を見た泰衡はつかの間、桜咲き誇る束稲山に思いを馳せた。





後書



泰衡さん難しい…!

ふと書きたくなったんですが、ツンツン具合の表現が難しいですね。

うっかりするとデレて泰衡さんじゃなくなってる…。



自分の表現力の問題ですけどね。



泰衡さんは結構好きなので、ちゃんと両思いなのも書いてみたいです。

あと、泰衡さんと言ったら、平泉ノーマルEDの、あのスチルからの泰望ルートは是非書いてみたいですね。
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