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冴雫
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笑言十題「何かいろいろとすみませんでした」は、遙か3での更新です。
将臣君とヒノエ君と弁慶さんの話。
で、微妙に弁慶×望美な要素あり。 
 
キャラ崩壊、とまではいきませんが、ちょっとキャラが違ってます。
でも、多分公式カーニバル(四コマ)範囲内ではある、と思います。多分。

ネタは、キャラの中の一人にひどいのでご注意。
キーワードは「血縁関係」。

大丈夫そうな方は追記へどうぞ。










 それは、熊野川の氾濫で、望美の一行が勝浦で足止めをくっている、つかの間の休息時の出来事だった。

 宿の廊下に落ちていた紙を拾ったのは将臣だった。

「ん、何だこれ?」

 一見、文のようにも見えるそれは、畳まれるでもなく、裏に書いてある文字が薄く透けて見えた。
 持ち主の手がかりがあるか、と裏をひっくり返してみると、冒頭に書かれている文章が将臣の目に飛び込んできた。



・ヒノエ君は弁慶さんの甥



「は? あいつら叔父と甥だったのか?」

 ヒノエと弁慶の関係は、将臣が知る機会がなかっただけで、同行者の間では周知なのかもしれない。

「……にしても、これ、望美の字か?」

毛筆ではあるがどこか丸っこい字、そして八葉の呼称からして、このメモは望美のものだろう。

「あいつ、どこにいるんだ? 今朝、どこかに出かけるって言ってたよな。……宿にいるやつに聞いてみるか」

 ほかの八葉、もしくは朔か白龍がいないかと、姿を求めて辺りを見回すと、先程文字で見たばかりの二人の人物が目の前に現れ た。

「お、ちょうどいいところに。叔父甥コンビじゃねぇか」
「おや、将臣君」
「なんだ、将臣か。野郎に声をかけられても嬉しくないんだけどね。……ところで、『叔父甥』なんとかっていうのは、俺達のこ とかい?」
「ああ。だってお前ら、親戚なんだろ?」
「ええ、まあ。ですが、よく知っていましたね」
「あれ、皆知ってるんじゃねぇのか? 望美のメモに書いてあったからてっきり……」

 言ってしまってはまずかったかと、将臣は頭を掻いた。

「ふーん。姫君は俺と弁慶の関係に気づく程、俺のことを知りたいと思ってくれているようだね」
「知りたいと願っていたのは、君ではなくて僕のことかもしれませんよ」

 見えぬ火花を散らしている二人から視線を逸らし、手にしたままのメモを折り畳もうとした将臣の目にとんでもない文字が飛び 込んできた。



――還内府の正体である将臣君――



 驚いた将臣は、思わず文をぐしゃりと握り潰してしまう。
 なんでそんなことを知っているんだ、望美。
 将臣の心の叫びを拾ったのは、望美ではなく弁慶だった。

「将臣君、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」

 さりげなさを装いつつ、紙をそっと後ろに回し持つ。
 これを、他人に見られるわけにはいかない。

「なんでもないということはないでしょう。原因はその紙のようですね。僕にも見せてくれませんか?」

 にっこり笑った弁慶に対し、将臣はだらだらと冷や汗を流さんばかりの体で戦略的撤退を行うことを決意した。

 これは敵前逃亡ではない。
 三十六計逃げるにしかず。

 そう自分に言い聞かすながら、じりじりと迫る距離を言葉で突き放そうとする。

「これは望美の持ち物みたいだから、勝手に見せるわけにはいかないだろ」

 まずは望美に問い詰めなくてはならない。
 そのためにも、今はこれを見られるわけにはいかないのだ。

「望美のだっていう証拠でもあるのかい? 署名とかさ」

 将臣ががっしりと握った紙を見て、横からヒノエがいらない口を挟む。

「それはないが、明らかに望美のだ」
「では、僕達がその考えが正しいか確認をしてあげましょう」
「いや、本人に見せれば確かめられるだろ」
「遠慮しなくていいですよ」
「遠慮じゃねぇ!」

 ふふ、と笑いながら弁慶は将臣から紙を奪い取った。
 脇でヒノエが「さすが、元荒法師」などと呟いているのに笑みを一つだけ向けて、弁慶は紙面に目を落とした。



・ヒノエ君と九郎さんは従兄弟なんだって
・ヒノエ君のお母さんと九郎さんのお父さんの義朝は異母兄弟
・九郎さんにとっても、関係上弁慶さんは叔父ということになるのかな



 先程の将臣と同じく、皴を寄せるほど強く紙を掴んで固まってしまった弁慶を不審に思い、今度はヒノエが中を覗き込んだ。



・ヒノエ君の父方の妹が平忠度さんに嫁いだんだって
・弁慶さんと忠度さんは関係としては義兄弟
・弁慶さんは清盛や経盛とも関係上は義兄弟
・清盛や経盛の息子である知盛や重衡さん、経正さんに敦盛さんから見たら弁慶さんは叔父さん
・死した重盛も清盛の息子
・重盛が蘇ったと言われる還内府も関係上は甥
・還内府の正体である将臣君も弁慶さんの甥という関係に?



「……姫君は、どこでこんな情報を手に入れたんだろうね」

 ヒノエは目を眇めながら、文章をさらに辿った。
 残りは一行だけ。



・八葉の中に弁慶さんの甥が四人もいるってことになるのかな



 八葉の半数が、弁慶の甥。

 源氏も平家も熊野も、あちこちで血縁関係ができているのだから、親戚などそこら中にいる。
 いちいち関係を辿ったって面倒なだけで、少し離れた関係ならば情など皆無に等しい。
 叔父だの甥だの、そんなものはほとんど意味をなさないのだ。

 が。

 ヒノエは少女の考え方にツボをつかれてしまった。
 いろいろな疑問や考えるべきことがあるのだが、笑いに押し流されてしまいそうだ。
 必死に笑いを堪えているヒノエの手から、弁慶が紙を取り上げた。

「これは、僕が預かっておきますね。将臣君にもいろいろと聞きたいことがあるのですが、望美さんに話をお聞きするのが先のよ うです。ですが、将臣君も姿をくらましたりしないでくださいね」
「んなことしねぇよ。俺も、望美に聞きたいことがあるしな」





 数刻後に宿へ戻ってきた望美は、小さなすり傷の為にとてつもなく苦い薬を飲まされる羽目になった。
 眠っている間には、うなされるように「ごめんなさい」と謝っていたそうだ。

 翌朝、目覚めた望美は皆に問い詰められ、諸々白状させられることになった。





 しかし、そのおかげで無事和議を結ぶことができたのだから、何がどう転ぶかわからないものだ。
 将臣は縁側で仲睦まじく寄り添っている弁慶と望美を見て心中で独りごちた。

 寝返りを打って、欠伸をする。

 ああ、今日も平和だ。






後書



ヒノエ君と九郎さんが従兄弟だと知った時(「はるか通信」情報)からずっと気になってた血縁関係のネタでした。

矛盾などはスルーしてください…!



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