笑言十題の「だって外、寒いじゃん」を吉日で更新です。
…あれ、「笑言」…?
携帯投稿で折り畳んでいないので、ご注意ください。
折りたたみました。
…あれ、「笑言」…?
折りたたみました。
吉羅が用事を終えて理事長室に戻ってくると、ソファーに少女が座っていた。
鍵は掛かっていたはずだが、と手にしたままのノブを見る。
反対側の手には、先程使用したばかりの鍵の冷たい感触。
部屋を出る時に鍵を掛け忘れ、その後で来た少女が部屋に入って鍵を掛けたのか、と一人経緯に納得した吉羅は、いつもの仏頂面をさらに固くしながら部屋の扉を閉め、鍵を掛けた。
こちらを振り向かない少女に違和感を感じながらソファーに歩み寄り、声をかける。
「日野君」
しかし、少女はぴくりとも動かない。
少女の正面に回り込んだ吉羅は、眠り込んでいる彼女を見て眉をしかめた。
吉羅の不機嫌な雰囲気を察知したわけではあるまいが、少女は身じろぎをする。
「う……ん……」
もぞもぞと体を動かしてから、寒いのか腕で自身を抱えるようにしてソファーに身を擦り付けた。
それでもまだ寒さが残るのか、身を縮こまらせている。
一連の動作を見守っていた吉羅は、彼女を起こすべきかと逡巡して伸ばしかけた手を自らの元へ引き戻した。
部屋の隅にかけてあった男物のコートを取ると、少女にかけてやる。
すると、少女は安堵したように強張っていた体を解した。
再び身じろぎすると、かけられたコートに顔を埋める。
途端、ふにゃりと笑み崩れる表情。
幸せそうなその顔を見て、吉羅は呆れたように息を一つ落とすとデスクへと向かった。
吉羅の意識を書類から引き戻したのは、衣擦れの音。
音の発生源を見遣ると、少女は先程見たままの体勢。
しかし、呼吸が寝息とは僅かに異なり、瞼に不自然な力が入っているのが見て取れた。
「香穂子。ようやくお目覚めかね」
その言葉に促され、渋々といった様子で少女は目を開いた。
「……オハヨウゴザイマス」
「おはよう、と言うには時刻が遅すぎるがね」
難癖をつけながら、吉羅はそれでも律儀に「おはよう」と挨拶を返した。
「どうしてこんなところで寝ていたんだね」
「理事長室に来たら、扉に鍵が掛かってなくて。開けっ放しにしておくのもどうかと思って、中に入って鍵をかけたんです」
コートを脇によけ、背伸びをしながら、香穂子は記憶を辿る。
「外が寒かったから、暖かい部屋の中が気持ち良くて……」
「寝てしまった、というわけかね」
「はい」
香穂子が頷くのを見てから、吉羅は視線を自らの手首に落とした。
短針は既に円の左側に達している。
「もう、下校時刻はとうに過ぎているよ」
その言葉に、香穂子はばっと振り返って壁にかけてある時計を見上げた。
「……本当だ」
香穂子は慌てて席を立つと、パタパタと髪や服を叩いて体裁を整えると、吉羅に頭を下げて部屋を後にしようとした。
しかし、そこに吉羅の声がかけられる。
「待ちたまえ」
なんですか、と振り向いた香穂子の瞳に映ったのは立ち上がった吉羅の姿。
「送っていこう」
「え」
目を瞬かせる香穂子とは対照的に、吉羅は平然とした顔で言葉を続ける。
「こんな時間まで君を引き止めてしまった責任は私にもあるからね。君を放り出して、風邪などひかれても困る。……外は、寒いのだろう?」
責任、と言いながらも、吉羅の瞳には何かを楽しむような光が煌めいていた。
それを反射するかのように、香穂子の瞳も輝く。
「そうですね。外、寒いですから。お願いします」
ああ、と頷いた吉羅は、ソファーに置いてあったコートを手にすると香穂子の肩にかける。
「君は、『寒い』と言っているわりに薄着だね。これを着ていたまえ」
「ありがとうございます」
『寒い』のを言い訳にして、共にいる理由を、触れ合う理由をつくる。
人気がないのを確認して絡めた手も、『寒い』から。
後書
あれ、コートをかけるって一年くらい前にも拍手お礼文で使ったネタ…。
まぁ、展開と比重が違いますので。
Memo更新ですし。
ほかのお題や香穂子受けお題も、カタカタ執筆中。
香穂子受けは来週中には更新したい、な…。
明日は遙か祭、明後日は舞台「どん底」なので、その二日間は筆が進まなそうですが。
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更新履歴ブログ「冴雫」。たまに小話か萌え語りカテゴリでSSS投下。
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