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冴雫
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「笑言十題」2つめ、「何で謝る側なのにそんなに偉そうなの?」は吉日で更新です。
このお題は気の向くままに更新しているので、もともと振られている番号は関係なしに更新中。

ちなみに、次は「分からやっといてアレなのですが、」を衛日で更新予定です。
衛藤→香穂子はあったけど、衛日は初めてですね。
サイトじゃなくてこのブログでの更新ですが。

さて、肝心の「何で謝る側なのにそんなに偉そうなの?」は折りたたみに収納です。
ベタネタあり。







何で謝る側なのにそんなに偉そうなの?



「ああ、それはすまなかったね」
「……謝る気、あります?」
「あるから、こうして謝っているのだろう」
「そうですね。言葉だけは謝ってるように聞こえますね。でも、その状態で謝られても、全然、全く、これっぽっちも、誠意が伝わりません」

 ちなみに、吉羅はソファーに踏ん反り返って座り、腕を組んでいる。
 尊大、と言う文字が頭上に浮かんでいそうだ。

 対する香穂子は吉羅に詰め寄り、肩を怒らせている。
 こちらは頭から湯気でも出そうな程、怒りで顔を赤く染め上げている。

「しかし、あれは君の行動が原因だろう」
「いーえ、吉羅さんの勘違いが悪いんです」

 睨み合うこと、数秒。
 吉羅は諦めたように息を吐いた。

「……わかった。代わりのものを購入しよう」
「それで万事解決するとは思わないで下さいね。私が、どれだけ楽しみにしていたか……!」

 香穂子の恨めしげな視線の先には、皿。
 上には、何も載っていない。

「あのチョコレート食べるの、ずっと楽しみにしてたのに」

 香穂子の脳内では、店に入ってからこの状況にいたるまでがDVDでも観ているかのように再生される。

 

 駅前通りで見つけた、可愛くて美味しそうなチョコレート。
 普段香穂子が口にするよりも、だいぶ甘さが控え目のようだった。
 たまにはこんなものもいいか、と購入し、香穂子は学院に向かった。
 休日なのに仕事をしている、吉羅理事長への差し入れも携えて。
 甘いものはあまり好まない彼の為に、香穂子が選んだよりもさらに甘さ控えめのビターなものを購入したのだ。
 吉羅の仕事が一段落ついたら、共に珈琲でも飲みながらそれぞれの好みのものを食べよう、と考えて楽しみにしていた。

 理事長室を訪れると、勝手知ったるとばかりに香穂子は休憩の準備を始めた。
 チョコレートを箱から出し、皿に盛りつけたところで、香穂子は教室に忘れ物をしていたのを思い出した。
 楽譜の一部で、明日練習しようとしていたものだ。

 今度こそ忘れないうちに、と香穂子はブレイクを楽しむ前に忘れ物を取りに行くことにした。
 二枚の皿と、吉羅の分の珈琲をテーブルに置くと、吉羅に一声かける。

「吉羅さんの分、こっちに置いておきますね」
「ああ」

 吉羅の視線は、書類に向けられている。

 その様子を横目に、香穂子は理事長室を後にした。


 忘れ物を回収した香穂子が理事長室に戻ると、吉羅はソファーに腰掛けていた。
 彼の前には、何も載っていない皿が一枚と、残り少なくなった珈琲。

 皿の位置に疑問を覚えた香穂子は、テーブルに近寄って声を上げた。

「ああーっ!」
「何だね」

 煩い、と顔をしかめた吉羅に香穂子は詰め寄る。

「私のチョコ……」

 空になっていたのは、香穂子が自分用に買ってきたチョコレートの載った皿。

 ここで冒頭に戻る。

 

 未だに恨めしげな目をする香穂子に、吉羅は打開策を持ち出した。

「ひとまずは、こちらのチョコレートを君が食べればいいだろう」
「こっちは暁彦さん用で、私には苦すぎて食べられません!」

 香穂子はプン、と横を向いてしまう。

 何かを思案するように、組んだ腕を指で叩いていた吉羅は、指の動きを止め、腕を解いた。
 残っていたチョコレートを摘むと、自らの口に放り込む。
 咀嚼して飲み込むと、立ち上がりざまに香穂子の腕をぐいと引いた。

 バランスを崩した香穂子の身体を、顔を捕らえ、口づける。
 一瞬で解放された香穂子は、バッと身を離した。

「なっ……!」
「チョコレートが食べたかったのだろう? これなら、苦さを感じることもない」

 香穂子は、空気を求めるようにパクパクと口を動かした。

「うん? 先程のでは不満かね」

 ならばもう一度、と伸ばされた手を払い、香穂子は吉羅に背を向けた。
 自分の荷物を引っ掴むと、ドタバタと足音響かせて部屋を後にする。

 バン、と騒々しい音をたてて閉まった扉に目をやり、吉羅は口角を上げた。
 綺麗な弧を描いた唇には、ビターチョコレートの香りが残っていた。



 

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